UBERなどのライドシェアサービスは日本でも話題になっていますが、UBERはブラジルの主要30都市以上で利用でき、交通インフラと言えるほど浸透しています。ブラジルでのUBERの利用者数は2017年2月に870万人を超え、ブラジルはUBERにとってアメリカの次に大事な市場です。
今回はブラジルのタクシーアプリ、UBER等のライドシェアサービスが浸透してきた様子を時系列で振り返ってみたいと思います。日本でUBER等のライドシェア、タクシー業界の方に参考になれば幸いです。
—前回のブログの内容はこちらからご覧ください—
1．ブラジルの交通事情とタクシー事情
2．ブラジルのタクシーアプリの台頭
3．UBERのブラジル参入
—今回の内容—
4．ブラジルでのライドシェア・タクシーアプリの新規参入と合法化の流れ
5．競争激化とサービスの多様化
6．私が日本のタクシー会社だったこうやります
4．ライドシェア・タクシーアプリの新規参入と合法化の流れ
UBERの成功と並行してWillGo、EasyGo、Televo、Cabify（楽天も出資）などなど、他にも多くのライドシェアアプリがブラジルでサービスをスタートします。
また、サンパウロ市では公式にブラックタクシーが始まります。UBER Blackに対抗すべく車体も黒に統一し、高級車で訓練を受けたドライバーによるサービスでしたが、通常のタクシーよりも20％ほど料金が高く、台数も限られているなどで失敗に終わります。
このように各社が参入してくるものの、ライドシェア・タクシーアプリは法律のグレーゾーンで運用が続けられたままで、タクシー運転手とのいざこざが絶えませんでした。
しかし、2016年5月にライドシェアサービス、タクシーアプリがサンパウロ市で正式に認められます。UBERやタクシーアプリもタクシー事業者と同様の税金等をサンパウロ市に支払うことで決着がつき、他の自治体もこの動きに追随し、正式にUBERやタクシーアプリが合法なものとなりました。
この結果、暴力事件もぐっと減り、利用者も運転手も安心して各種サービスを使えるようになりました。
5．競争激化とサービスの多様化
UBERは顧客層を広げすぎたためにサービスレベルが落ちてきます。古くて、エアコンもないような小型車が増えてきます。また、特長の一つである水を常備している車もほとんどありません。
後発各社は自動車のクラスを維持し、Cabifyなどは水を欠かさないために無料で運転手に提供しています。また、後発各社は利用料金をUBERより安くしつつも、ドライバーの取り分がUBERより多くなるように設定しています。
例えば、UBERは2000円の料金を25％＝500円をUBERがとり、1500円がドライバーに残ります。Cabifyは同じ距離を1900円に設定し、手数料が17％の306円をとり、1584円がドライバーに残るような設定です。
更に、頻繁にクーポンを配布して通常でもUBERよりも低い料金がさらに10－30％低い料金で乗れるように顧客獲得に力を入れています。
UBERも対抗して、他国で実践してきたサービスをブラジルでも着々と展開します。
- 複数の乗客をピックアップする乗り合いサービス、UBER POOLをバス並みの料金で提供開始します。
- クレジットカードのない顧客層を取り込むべく現金支払を可能にもしました。ただし強盗が暗がりにUBERを呼び出して所持金を巻き上げる事件も多発し、治安の悪い地域に住む低所得層も利用し始めるなど、UBERドライバーのリスクを増やすことにもなってしまいます。
- 企業の経費精算用のレポートを無料で毎月・毎週メールで送付しています。
- 通常のUBER Xと高級なUBER BLACKの間にUBER SELECTというクラスをUBER X＋30-50円くらいで提供し、金額で自動車のクラスを担保するようにもなりました。
- UBER EATSもブラジルでも始まっています。レストランで食べる場合の2－3割高い料金設定や、ifoodという競合などの問題もあり普及度はまだ低いようです。
- 現在は終了したサービスですがUBERヘリというのもありました。サンパウロ市はヘリポートの数が世界でもトップクラスの都市なのですが、サンパウロ市内から空港までをタクシーの倍の値段でヘリで送迎するサービスでした。
また、タクシーアプリだった99Taxiは2017年1月に中国の「滴滴出行」（ディーディー チューシン）から100億円超の出資を受け、UBERのように一般の運転手を呼べるようにサービスの拡張をしました。渋滞時の急ぎの場合はタクシーを呼ぶことでタクシー専用レーンを使えるオプションもあり、UBERよりも幅の広いサービスと言えるかもしれません。
ディーディーはUBERの中国事業を1000億円以上で買収した会社で、最近ソフトバンクのファンドから1000億円超の出資を受けたことでも有名な企業です。
その関係もあって、99Taxiは2017年5月にソフトバンクから直接100億円超の出資を受けています。ブラジル以外の中南米への進出もうわさされていますが、今後さらに激しい競争が続いていくでしょう。
6．私が日本のタクシー会社だったこうやります
各社の競争状況やポジショニングを見ていると、業界が成熟してボリュームが大きくなったので、顧客ターゲットを絞っても共存していけるようになっています。
また、グーグルマップからアプリを直接呼び出せるようになり、利用者の認知を上げています。
また、価格比較が簡単にできるようになりました。写真は2017年5月20日の一例です。（クリックして拡大）
労働者側から見ても、失業者の一時的な収益源として、学生がパートタイムで働けるなど、メリットが多いです。被害を受けたのはタクシー運転手ですが、最近はタクシー運転手をやめてUBERで仕事をするようになる動きも出てきています。
日本ではまだ規制が強いですし、都内だとタクシーをつかまえること自体は不便がないのであまり必要がなさそうにも思えますが、将来的にUBERが解禁される可能性も十分あるので、今はタクシー利用でより多くの顧客を囲い込んで、一般運転手が解禁になったらそつなく取り込む、ブラジルの99 Taxiのアプローチは有効ではないでしょうか。
日本のタクシーも料金を変えなくても、配車以外にもたくさんのメリットを提供できると思います。
・目的地がナビで管理されるので運転手と話す必要がない
・アプリ支払いで目的地に着いたら降りるだけ
・企業の経費精算レポートが毎月送られる
・タクシーの予約機能
・ベビーシート、車いす用などの用途による呼び出し
・タクシーチケットのアプリ化で管理コストを削減
などなど、すでに一部提供されているアプリもありますが、まだまだ改善余地は大きいでしょう。
私は海外出張が多いのですが、欧米、中南米、アジア各地でほぼUBER等が使え、非常に便利になったのを実感します。
むしろ日本でのタクシー利用を本当に不便に感じるようになってしまったので日本でもはやくもっと便利になることを願っております。