2018年はブラジルのITスタートアップにとって歴史的な年になるかもしれません。1月3日にライドシェアの99がソフトバンク傘下の滴滴に買収されユニコーンとなった3週間後の1月24日にはPagseguroがニューヨーク証券取引所に上場してユニコーンとなったあと、3月2日現在では時価総額がUS$10Bにまで達しています。
そして2月28日にはブラジルのフィンテックの象徴的な存在でもあるNubank(ヌーバンク)がシリーズEとしてUS$150Mを企業価値B$1Bを超える条件での資金調達を完了し、この2ヶ月で3社目のユニコーンとなりました。
Nubankは2013年にDavid Velez(デヴィット・ヴェレス)氏によって創業されました。David氏はシリコンバレーのベンチャーキャピタル最大手であるセコイアキャピタルのパートナーでしたが、当時ブラジルのスタートアップへの投資を検討するべく様々な調査をしている中で、ブラジル市場のスタートアップへのポテンシャルが大きい一方、有力なスタートアップが存在していなかったため、自らNubankを立ち上げます。
ブラジルでは収入面などの問題から銀行で口座を作れない層が多く存在しています。銀行に口座がないと各種料金の支払や給与の受け取り等を含むすべてのお金のやりとりを現金で行わなければならないので非常に不便な上、治安に問題があるブラジルでは盗難等のリスクも大きく、預金や投資といった金融活動もできません。こうした状況はブラジルの格差が大きい理由の一つとして大きな社会問題として考えられていました。
ブラジルでは銀行口座が持てない層でも携帯電話・スマートフォンの普及率は日本並みに高いことに目をつけ、Nubankは100%オンラインで店舗を持たず、効率を重視したオペレーションを行うことでこれまで銀行口座を持てなかった層への金融サービスを提供します。利用者はNubankが発行するカードでデビットカード・クレジットカードとしての支払が可能ですし、アプリを使っての資金移動も可能となります。
アクティブユーザーは2017年8月時点で100万人を超え、2017年の第一四半期の売上はR$236M(約70億円強)と言われております。収益源はクレジットカード利用の金利収入です。ブラジルの消費者は分割払いで月々の支払いを低く抑えて消費を最大化する傾向にありますが、この際の分割払いの金利が年利ベースで400%程度になるとも言われています。いわゆる新興国にありがちな負の連鎖がおきてしまうわけですが、Nubankはこの金利を3分の1程度に抑えることで利用者にやさしいサービスとして提供していますがそれでも年利ベースで100%を超えるわけですから日本の常識からすると考えられません。
未払い等のデフォルトも一定割合で発生しますが、ブラジルの場合は国民全員が納税番号で管理されているため、不正目的のユーザーが二度三度と繰り返して踏み倒すことを防ぐのは比較的容易です。
また、ブラジル国内での調達金利は非常に高いのですが、Nubankは当初からアメリカを中心に国際金融市場へのアクセスがあったこともあり、非常に高い利益率になっています。創業当初からセコイアキャピタルが投資をした後、Tiger Global Management、Founders Fundが数十億円を投資、更に2016年4月にはあのゴールドマンサックスからDebtでの調達をしています。2017年8月にはソフトバンクに買収されたことで日本でも有名になったFortressがUS$150Mで出資をしています。
創業から5年間で合計US$500M超の調達を行っていて、これはブラジルのスタートアップ業界では極めて異例ですが、こうしたUS型の資金調達が可能だったことで金融という資金負担が大きいビジネスをBtoCという投資リターンが読みにくいエリアで成功させてきているのは見事としか言いようがありません。
低金利にあえぐ日本の資金を使ってこうした新興国向けの金融サービスを行っている例はアジアを中心に増えてきていますが、金融は地理的な距離の影響が低いビジネスですから、ブラジルを含む中南米にもまだまだチャンスは大きいです。
弊社でもブラジルのフィンテック領域への投資を今後益々力を入れていきますが、日本の金融・フィンテック関連各社の今後の動きに期待したいところです。
https://epocanegocios.globo.com/Empresa/noticia/2017/08/nubank-tem-mais-de-1-milhao-de-clientes-e-fecha-1-semestre-com-receita-de-r-236-milhoes.html