ブラジルの起業家に幼少期から成功までの道のりを語ってもらうブラジル・ベンチャー・キャピタルの独占インタビューシリーズ。
クラウド経理システムをブラジルで提供するコンタアズウ(ContaAzul)を立ち上げたヴィニシウス・ホエダ氏のインタビュー最終章です。コンタアズウはこのインタビューの直後、2018年の4月3日にUS1億ドルの資金調達も発表され、もうIPOまでカウントダウンという段階に入ったようです。
ブラジルへの帰国
500 Startupsのアクセラレータプログラムに参加する以前、私は投資の世界とは全く無縁でした。ブラジルではベンチャーキャピタルを探したことも話したこともありませんでしたが、アメリカではベンチャーキャピタルの方から私達を見つけて、投資をしたいという話を持ち掛けられました。運が良かっただけだと言われることもありますが、私はこれは運ではなくて、正しい時期にしっかりとした準備が整っていたからこそ起きたことだと思っています。当時のブラジルは、コルコバードのキリスト像がロケットのように離陸するイラストがエコノミスト誌の表紙を飾った時期でした。正にブラジル経済が世界中の注目を集めている時期だったのです。
10月にシリコンバレーへ渡米し、12月にはシードラウンドをクローズして資金を確保できました。2012年2月にブラジルに帰国してチームを作り始めました。同年の12月時点では前年比ほぼ300%に及ぶ成長を成し遂げました。しかしまだまだ商品開発のために必要な投資が必要だったため、同年の第4四半期にシリーズAの資金調達をしました。そこから1年後にはシリーズB、2年後にシリーズCと順調に資金調達を続けることになります。シリーズCではアメリカファンドのTiger Global Managementを始めRibbit Capital、 500 Startups、Monashees そしてValar Ventures を味方に引き入れました。2013年以降はこの一連の資金調達と登並行してマーケティングに力を入れ、マーケティングスキルの高いチームを作り上げることができたこともあり、急激な成長曲線を描きながらビジネスが拡大していきました。
次なるチャレンジ
現在、コンタアズウは新たなステージに立っています。設立から6年経った今でも年平均成長率は100%近くに達しています。私の次の挑戦は私達の企業としてのビジョンがチーム全体に浸透させることであり、企業文化をはぐくみながらしっかりとアウトプットを続ける体制を作ることです。また、そのためにも役員・管理職クラスのチーム形成には特に重点を置いています。例えば、オペレーションディレクターはGoogleから、プロダクトの責任者はLocalWebから、マーケティングディレクターはMercado LivreとViva Realからやって来た人材です。
5年間で250名にまでに急拡大した社員達を一つのチームにまとめ上げるのは困難な仕事でした。下手をすれば不満やフラストレーションに繋がってしまうリスクがある中で、新しく入ったスタッフがどの様に会社の理念や価値観に共感できるか、他社からやって来た野心に溢れる人材をカルチャーにフィットさせつつ力を発揮してもらうようにマネージするか。私達の会社は従来の人事のあり方から離れ、戦略的な人事を行ったことで、人事面でもブラジル国内で注目されるようになってきました。
IPOを視野に入れて
コンタアズウはこれから1年程で売上1億レアル(約32億円)達成を目標としています。
IPOは3年から5年先を目指しており、その前に最低でもう1ラウンドの資金調達する予定です(編集注:インタビュー後の2018年4月に1億ドルの調達を発表)。勿論、私達の決断だけでは決められませんが、IPOの前に準備を整え、市場のチャンスを逃さないつもりです。すでにIPO後と同様の社内の管理体制で運営していますし、去年からIPOについての知識が豊富な人材をCEOに就任させています。他のビジネスモデルも視野に入れて行くことも考えなければ行けません。まだまだ野心を胸に秘めています。
ブラジルに置けるスタートアップ環境
ブラジル国内のスタートアップ環境はここ5年でかなり変化したと思います。
私は2018年がブラジルのIT市場にとって歴史的な年になると見ています。現に私達は中国のDidi Chuxingが99を買収したこと、PagSeguroがニューヨーク証券取引所で株式公開したのを目の当たりにしています。従来の見せかけの起業から実際に素晴らしいサービスを提供する企業がブラジルで芽生え始めています。これまでは多くの人たちが口だけでいろいろとかっこいいことは言っても、実際には内容が伴っていないような状況も多々見てきました。
また、今の世の中、世界中の大学の教育コンテンツにほとんど無料でアクセスすることができます。今日ではコンタアズウの見本となるような会社のCEOに先輩に相談するように電話で話をして意見交換や経験を聞くこともできるような時代になってきました。私達が創業した2011年前後はこんな良い環境ではありませんでした。
ブラジルで起業するのが大変かと問われれば、答えはイエスです。しかし、先に述べた様に、ここには多くの問題があるからこそ、それをビジネスチャンスに変えることが出来る、起業には最高の国なのです。
ブラジルの起業家達へのメッセージ
ビジネスモデルを考える前に自分がアプローチする市場を良く知ることが何よりも必須の条件です。私がゼロから起業するとすれば、そこから始めるでしょう。
また、起業は困難です。問題や困難はいくらでも現れます。一朝一夕には物事は運ばないことを理解することが必要です。したがって、自分自身が決めた目標、信念が強ければ強いほど、また、自分が置かれている状況が信念と深く繋がっていればいるほど、成功の可能性が高まると言えるでしょう。
もう一つ大切なのは、チームです。起業の初めは特に問題が多く、苦しいものですから、自分の周りにインスピレーションを与えてくれたり、起業家として辛い時も一緒に乗り越えてくれる、重荷を一緒に背負ってくれる仲間がいることが重要になります。
そして最後は実際に存在する問題に着目することです。ブラジルは広大で、多くの問題を抱えています。そこに対してサービスを提供すればチャンスはいくらでもあります!
インタビューからのキーメッセージ:
“企業文化が組織の中で重要ではないと思っている訳ではありませんが、私はもっと直接的にもっとわかりやすく直接的な人間関係やそこから来る組織のあり方というものに強い興味を抱き始めました。”
“コンタアズウの最初の商品は大きな失敗に終わりました。ほんの数人のクライアントから聞いたニーズをそのまま市場全体の絶対的なニーズだと思い込んでしまったことが原因でした。適切なリサーチや試験的なローンチを行わずに多くの時間をつぎ込んで商品をローンチした瞬間にわかったのはとても市場のニーズに合致したとはいいがたいプロダクトを作ってしまったいうことでした。”
“正しいタイミングで素早く成長することで市場を抑えてしまう必要があり、金銭的な面での手助けが必須となっていました。もしかしたら最高の起業家は外部からの投資無しで大きな企業を作れるのかも知れません。しかし、誰もが投資なしで大きな事業を立上げられる訳ではないのです。その事を踏まえて、最初の何年かは会社の成長を優先して、投資をし続けるという決断をしました。”
“シリコンバレーを訪れた時には、自分たちでは既に商品は完成していると思っていました。しかし、500のプログラムの中でデザインとは何たるかを初めて本当に理解した時に、その時点で私達が開発したものは完成には程遠く、全くダメだと思い知らされました。”
“現在、コンタアズウは新たなステージに立っています。設立から6年経った今でも年平均成長率は100%近くに達しています。私の次の挑戦は私達の企業としてのビジョンがチーム全体に浸透させることであり、企業文化をはぐくみながらしっかりとアウトプットを続ける体制を作ることです。”
ヴィニシウス・ホヴェダ・ゴンサウヴェス:Vinicius Roveda Gonçalves
コンタ・アズウ社の創業者件CEO。サンタ・カタリーナ州立大学コンピュータサイエンス学部卒業。
それまでは大手のシステム開発会社が大企業向けに個別に開発、販売していたビジネス管理ソフト市場に、シンプルかつ低価格でクラウドベースのソリューションを提供。中小企業経営者のニーズを踏まえたサービスとして圧倒的な支持を集め、ブラジル全土に展開し、大手企業に独占されていた市場で成功を収める。
コンタ・アズウ:ContaAzul
コンタアズウは2011年サンタ・カタリーナ州ジョインヴィレにてヴィニシウス・ホヴェダ、ジョゼ・サルダナ、ジョアン・ザラチネの3人で創業。中小企業向けオンラインの経営管理ツールを提供する。2011年にはアメリカ・シリコンバレーに本社を置く500Startupsのアクセラレーションプログラムにブラジル初のスタートアップとして参加。創業6年目にして100%に近い年成長率を誇っており、年内には社員300人、年商30億を超えると予想されている。ブラジルのスタートアップの中で最もIPOに近い企業と目されている。