ブラジルの起業家に幼少期から成功までの道のりを語ってもらうブラジル・ベンチャー・キャピタルの独占インタビューシリーズ。
今回はポウピ(Poup)を起業後売却し、現在2つ目のスタートアップとなるベーシスブルー(bxblue)というフィンテックのスタートアップを立ち上げたグスタヴォ・ゴレンスタイン氏のインタビューです。
bxblueはシリコンバレーのYコンビネーターのプログラムにも参加したスタートアップで、私どもブラジル・ベンチャー・キャピタルもYコンビネーターに投資を受ける前の段階で出資しているスタートアップです。
第二部ではグスタヴォの最初のスタートアップ、Poupの起業に至るまでのストーリーを語ってくれます。
ブラジル帰国後のチャレンジ
ビジネスを始めようと、ブラジルに戻りました。コカ・コーラから魅力的なプロポーザルがあり、アップル、Googleなどからも魅力的なチャンスを頂きました。でも、私は当初のプランを揺るぎなく維持していました。そして、私が今何をしているのかと誰かに尋ねられた時の答えは、「失業中だよ」というもの。実際に動かしているプロジェクトがない限りは、起業をしているのだとは言いたくなかったんです。このような返事しかできないことは私にとってとても苦痛でした。
私はブラジルのスタートアップ関連の人を誰も知りませんでした。なので、その業界のイベントに行き、その道の人たちと会話をするように務めました。私はこのように話しました。「ロンドンから戻ったばかりなんです。(当時ブラジルではまだあまり普及していませんでしたが)リーン・スタートアップのようなセオリーに関して修士号を取りました。具体的に助けが必要でしたら、講演会もできますよ。」
すると、スタートアップ・ファームのようなアクセラレーターから呼ばれるようになり、このエコシステムをより知るようになりました。
ロンドン時代に、イラン・ベン・サバットという名のイスラエル人の大親友ができました。彼は一緒にプロジェクトをやるよう提案をしてくれました。「そのビジネス自体がうまく行くかどうかなんて重要じゃないんだ。そうじゃなくて、我々の議論を続けて一緒に何かをやろうじゃないか!」
私は了解し、リサーチを行いました。彼はロンドン出身で、私はブラジル人。私たちのリサーチの中で、Quidcoというキャッシュバックを行うロンドンの企業に注目しました。キャッシュバックのビジネスコンセプトは2011年のブラジルでは新しいものでした。ブラジルではようやくPeixe Urbanoという共同購入サイトがブレークしている段階でした。
Quidcoのビジネスをブラジルでも提供するのは意味があると思いました。イランは非常に優秀なエンジニアで、アフィリエイトについても十分理解しており、このアイデアを気に入ってくれました。
オンラインビジネスをどう立ち上げ、迅速にテストをし、出費を抑え、私たちのアイデアを有効にするなどそのセオリー全てを修士で学んできたので、私たちは早速作業に取り掛かりました。
20人の友人にこのプロジェクトを説明するメールを送りました。彼らにはテストを手伝って欲しかったのですが、私のメールに返信をし、もっと知りたいと興味を持った人だけを呼びました。結局16人から返事がありました。その中の1人は、このプロジェクトを少し不審に思っていました。「やあグスタヴォ、それって何なの?君のことは子供の頃から知っているけれど、君が頭を突っ込んでいるビジネスって何なんだい?僕が買ったら、君は僕にお金を返してくれるってこと?」
もし私を小さな頃から知っている彼がそれを尋ねてくるのだとしたら、私のことを知らない人はどう思うだろうかという心配がありました。「それって、オンラインの買い物でキャッシュバックされるお金の一部を受け取れるというそんな話をみんなが信用するってこと?」その疑問は解決する必要がありました。
もうひとつのチャレンジは、ショップ側です。このプログラムにどのくらいの企業が参加してくれるのか。パワーポイントでプレゼンテーションを作り、IT業界を占有している企業、B2W、アメリカーナス、スブマリーノ、カサス・バイーアスなどの企業を訪ねました。その時のピッチはこのようなものでした。
「私はあなたたちに無料の集客ツールを持ってきました。もし買いものが行われたら、あなたたちは私に手数料を支払います。そしてその一部を利用者に還元するものです。Googleでは、お客さんの誰かが買い物をしなくても、ただクリックするたびにお店が支払いをするです。しかし、もうそんな必要はありません。お店側は、お客さんが買い物をしたときだけ手数料を払うのです。」
私が話をしたお店10件の中で9件が、参加を決定しました。唯一参加しなかった企業は「サービスが大きくなったらまた戻ってきなさい」と言いました。
Poupの誕生までの日々
2週間で、私はすでに2つの重要なことを達成していました。ひとつは参加してくれるお店を集めたこと、もう一つはテストに参加する16人の人。しかし、まだこのビジネスが実現するために必要な機能に関して山のように疑念がありました。購入から返金までのサイクルがうまく回るか確認することが必要でした。つまり、お客さんが買い物をしたらお店が私たちに支払いをし、私がお客さんにその一部を返金する。この流れを15回から20回、回転させる必要がありました。
その時の問題は、イランは少なくとも私たちのサイトをオープンさせるまで3ヶ月かかると言っていたこと。しかし、そんな期間じっと待つことはできない!私はこう言いました。「イラン!2週間だ!もう20人の人に私は話をして、お店の承諾もとった。次のステップまで3ヶ月も待つことなんてできないよ!」すると彼は「誰がデベロッパーだと思っているんだい??3ヶ月かかるんだよ!」。次の日、私は再度彼に電話をしました。「やあイラン!僕たちがテストを始めるには、どの方法がより簡単なの?」すると彼は「3ヶ月かかるんだよ。グスタヴォ!」と言い返しました。3日目も、また電話しました。すると彼は「3ヶ月だ!!!」4日目にはある提案をしました。そして次に電話をした時こう言いました。「これから言うようにやらないかい?僕が必要なものを君に説明させて欲しいんだ。なぜって君が考えていることと僕が必要としているものが食い違っている可能性もあるだろ?」
私がただ必要としていたのは、消費者が9つのお店のロゴを見ることができて、その一つをクリックした時にお店のサイトに繋がるようにすることだった。もうひとつ必要だったのは、お店がそのクリックからくる集客がPoupから来たものだということをわかるようにすることでした。
「あとで私はプラットフォームをみて購入したお客を確認し、購入したお客さんにレシートをメールで私宛に送るように頼み、私がキャッシュバック額を計算する。それでおしまいだよ。」
すると彼は「ユーザーの口座に自動的に振り込まなくてもいいのかい?」と聞きました。
僕は「それは必要ないんだよ。必要なのは、お客さんがお店のサイトに向かったとき、それが店にもわかること。その後は僕が全部エクセルでやるから。僕には時間があるから。それに、15人の友人しかいなくて、たくさんの数の買い物にはならないんだから。」
すると彼はこう答えました。「そんなことならワードプレスで出来るよ。2時間もあれば十分。」
そしてその夜には早速最初のテストをしていました。「みんな!やっと出来た。もしこの中の店で買い物をするなら、このサイトに入ってここから買い物をして。なぜなら、僕はこのサイトがうまく機能しているか確認したいから。」
これが後にPoupとなるサイトの最初のテストで、ブラジルに戻って3-4ヶ月が経った頃でした。
私は買い物をしてくれる人を増やすため、さらに5人の人達にこのサイトに参加してくれるよう友達に紹介を頼みました。月に2000ドルPoupを通じて購入させるという目標がありました。あるの家族(誰かの紹介だけれど、誰だったか不明だが)がヨーロッパまでの旅行パッケージを購入し、その購入だけで1.800ドルになりました。そのため、私はこの家族の1回の買い物で目標を達成しました。そして、これらの購入者達は、お店がサイト上で成長できるための助言をくれ、私たちはプラットフォームにより多くの店を載せて行きました。
厳しいデッドライン
2ヶ月が経った2012年の7月。ブラジリアでスタートアップ・フォーラムのイベントがあり、私はリーン・スタートアップとカスタマー開拓についてのセミナーで講演するため、またサイト全てを作るためのCTOを獲得するために参加しました。
このころイアンはもうプロジェクトから抜けていたからです。そのイベントで、最高のエンジニアであるカルロス・ボテーリョ(Carlos Botelho)と知り合いました。彼は、Poupだけの仕事に専念できるように共同経営者だったソフトウェアの製造企業を退社しました。
イアンが言ったように、彼はサイトを完成させるために3ヶ月必要になるはずでした。しかしまた、とてもタイトな期間しか確保できない状態でした。
私は年末に行われる2つの大きなイベントを有効活用するために、それまでにサイトを完成させたかったのです。そのイベントとは、ブラック・フライデーとクリスマスでした。その二つの日程は合わせると、1年の売上の半分に達するのです。そのチャンスを失う事などはあり得ません。
サイトは2012年のブラック・フライデーまでには完成し、50ほどの店舗が掲載されていました。でもそのサイトにも「私のお金が欲しい!」というユーザーがキャッシュバックを受けるためのボタンはまだありませんでした。利用者がキャッシュバックを獲得するための手段がないキャッシュバックのサイトなどあり得るのか?とも思いましたが、私はとにかくブラックフライデーまでには公開したかったのです。
私は当時自分の兄弟と話したことを覚えています。「公開しないで!もし捕まっても、私はあなたを救わないわよ!」と彼女は言いました。私の理論では、私は顧客のお金を盗んだりしない。約束どおり、でもちょっと後になるけれど、それを払い戻すのだから。ちょっと変わった方法で、自動的にではないけれど。
「グスタヴォ! ブラック・フライデーに公開するのはやめようよ、絶対!」とカルロスも言いました。「ボタンはクリスマスまでには完成する。後1ヶ月待つことにしようよ!」
でも、私たちはブラック・フライデーとクリスマスを失うリスクがありました。私にとって、それは大きなテストでした。まだビジネスになるのかもわかっていませんでした。だから未完成でも公開することに決めたのです。
そして結果的に、それは正しい決断でした。結局自動キャッシュバックのボタンは、2013年の3月に完成したのです。もし待っていたら、私たちは5ヶ月分の収入額を失っていたのです。
成長に向けての大きな提携
テストの結果と完成したシステムをもって、キャッシュバックが受けられるという話は本当だということをより多くの消費者に納得してもらうためにレピュテーションの高い、有名な企業と提携することが必要でした。
私はブラジル中のEコマース企業が集まるイベントにブラジリアから参加しました。ただペイパルの役員と話すためだけにそのイベントに行ったのです。カフェエリアに着き、そこにいたある若者に尋ねました。
「君はペイパル社のチアゴがどの人か知ってる?」
すると、「私ですよ。」とその人は答えました。
私は彼とPoupについて話したところ、チアゴは非常に興味を示し、提携をすることになりました。ペイパルは彼らの顧客ベースに「もしあなた達がPoupで買い物をしたら、ペイパルによってキャッシュバックを受け取れます。」というメールを送りました。これが私たちが最初にした大きなマーケティングキャンペーンとなりました。しかも無料の。
最初の資金調達
ペイパルと業務提携を始めたのと同じ時期に、我々はカルロスの友人のダニエルから12万レアルの最初の投資を獲得しました。ダニエルはエンジェル投資家であり、ブラジリアのソフトウェア会社を所有していました。私たちはダニエルに、億万長者になれるなんていう約束をしたわけではありませんでした。そのため私たちは落ち着き、安心していられたのです。
ありがたいことに、ダニエルはアドバイザーとして大きな貢献をしてくましたが、一度も私にフィーを要求することはなく、私たちのビジネスを近くで見守ってくれました。
その後、Poup はブラジルが国として行うスタートアップ・アクセラレーションのプログラム、「スタートアップ・ブラジル」に仲間入りしました。そこからPoup は30万レアル(15万は政府から、そして残りの15万は私たちをサポートしてくれたアクセラレーターのWayraからでした)を受け取りました。
このプログラムを導入したブラジル政府はデジタル分野の起業家に投資をしたがっていましたが、デジタルビジネスに関して何も理解していなかったので、ビジネスプランの評価はアクセラレーターが行う形で起業支援をするというもので、アメリカや他のラテンアメリカ諸国、イスラエルなどでも行われているのプログラムを参考にしたものでした。
こうして私たちは、安定した資金を獲得することができました。
それぞれの道へ
Poup の2人の共同経営者がそれぞれ異なる目標に向けて進み始めるときがきました。カルロスはエンジニアとしてより大きな技術的な挑戦をしたいと考えていました。私はより大きなビジネスを起こす機会を引き続き追及していきたいと考えていました。
通常はこういった状況になると共同経営者の間で確執が起こり、ビジネスは白紙に戻るものです。でも、我々はこのビジネスで共に仕事をしたくはないのだという事実を受け入れられるぐらいの賢さは持ち合わせていました。
カルロスが個人の思う道を歩めるようにし、それぞれが自分のキャリアを歩めるように我々は決断をしました。今振り返ってみても、当時の我々は非常に成熟していたと思います。現在カルロスはMITのラボラトリーでリサーチャーとして働いています。
こうして共同経営者がいなくなったタイミングでPoupを売りに出すことにしたのです。Poupは、素晴らしいブランドそして50万以上の人々が登録する良いユーザーベースを持っています。実際に、持続可能性を維持できるビジネスを創設しました。私たちは多くの資金を保持していたので、少なくともPoupを売る前に投資家達に配当を渡すことができると考えていました。
Poupの売却先を探す日々
Poupは常に多くの業務提携のオファーを受けていました。そのため、事業を売却する段階になったらこのように話しました。「業務提携も良いけれども、あなた達はプラットフォーム自体を手に入れたくはありませんか?」こうしてクレジットカード関係の会社などを中心に売却の話を始めました。
2017年にCBSS銀行にPoupを売りました。理想的な購入者に出逢うまでには1年半かかりました。CBSSは、デジタル商品の創設に焦点を当てたブラジル銀行とブラデスコ銀行との業務提携の中で生まれた会社で、Nubankの競合であるクレジットカードDigioも彼らの事業です。当初私たちも業務提携を模索していましたが最終的には事業全体を売却する結果になりました。そしてその交渉は、2017年の6月から12月までかかりました。
Gustavo Gorenstein – グスタヴォ・ゴレンスタイン:
Yコンビネーターからも出資を受けたベーシス・ブルー創業者。大学で経営学を学んだ後コカ・コーラ社に8年間勤務。その後経営者の参謀となるキャリアから自らが経営者人なるべくキャリアチェンジを決断。最初にポウピを起業しエグジットした後、現在2社目のスタートアップとなるbxblueの立上げに従事。 リーンスタートアップという言葉が今ほど知られるようになる前から自ら実践しているブラジルの起業家エコシステムの中でもリーダー的な存在。
Poup – ポウピ:
Poupはオンラインショッピングを行った消費者がキャッシュバックを受けられるクーポンサイトでブラジルでは草分け的な存在。2012年後半に設立後2018年にはキャッシュバックサイトの最大手の一つである。2017年12月にCBSS銀行に売却。
bxblue – ベーシスブルー:
bxblueは2016年3月に設立。給与天引き型と呼ばれる、個人向けローン商品の選定から契約までのプロセスすべてを100%オンラインで完結するブラジル史上初のプラットフォーム。