ニュース要旨 ブラジルでウェブサイトの運営などを手掛けるLocaweb社がブラジル証券取引所(BOVESPA)に上場しました。上場に伴う資金調達額はUS$325Mにのぼり、市場価値はUS$650M(同社の2020年の予測純利益の約31倍)と推定されています。 同社は、調達資金の半分ずつを現金とM&Aなどに充てたい考えです。107社とのM&Aの可能性を示唆し、すでに36社とコンタクトしたことも明かしました。 インターネット関連事業が伸びを見せるブラジル。今回のブログでは、Locaweb社の上場の狙いや、他社の米国での上場の背景などについて、考えてみたいと思います。
今回のニュースの着目すべき3点
1) インターネット業界での市場拡大と競争激化に伴う資金調達ニーズが増えている事。
2) 上場に伴うデメリットも存在し、特に創業間もないスタートアップ企業にとってはハードルが高い事。
3) 米国で上場するブラジルのベンチャー企業も登場している事。
BOVESPAへの上場を果たしたLocawebの経営陣
会社概要
ウェブサイトやEコマースの運営、クラウドサービス、e-mailマーケティングなどを手掛けるブラジルのインターネット企業Locawebは、ネットバブルの1998年に、Gilberto Mautner氏とClaudio Gora氏の従兄弟により設立されました。両氏はアメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)で学び、ウェブサイトの運営、クラウドコンピューティング、e-mail、ブランディングに深く精通しています。大株主であった米系の大手プライベートエクイティSilver Lake(US$43B以上を運用)は10年前から保有していた19%の株式を全て売却し、創業家は35~50%の株式を保持する見通しです。上場に伴う資金調達額はUS$325Mにのぼり、市場価値はUS$650M(同社の2020年の予測純利益の約31倍)と推定されています。
Locawebのウェブサイト
ベンチャー企業による上場のメリットとデメリット
ここでは、上場のメリットとデメリットについて考えてみたいと思います。一般的には下表に集約されるでしょう。資金調達やガバナンス強化、ブランド力の向上などの利点がある一方で、株主による経営への圧力や上場の準備、敵対的買収のリスクなどがあるため、創業間もないスタートアップ企業にとってはハードルがより高いかもしれません。今回上場を果たしたLocawebは、創業から20年以上が経過した「中堅ベンチャー企業」とも定義でき、「スタートアップ企業」とは別の部類としてとらえる必要もあるでしょう。
メリット | デメリット |
資金調達のしやすさ・規模 | 株主による経営への介入 |
ガバナンスの強化 | 上場準備にかかるコスト |
ブランド認知度の向上 | 敵対的買収のリスク |
上場によるメリットとデメリット
一方で、M&Aはどうでしょう?スタートアップ企業にとっては、上場よりもハードルが低く、より現実的なEXIT手段と言えるかもしれません。①上場のような複雑な準備がなく、②未上場でも大型の資金調達が可能、といったメリットが存在します。
ブラジル企業による米国IPOの事例
ブラジルのオンライン証券取引を手掛けるXP Investimentosは、以前にユニコーンに仲間入りを果たしていましたが、昨年末にアメリカNASDAQ市場へ上場しました。ブラジルのベンチャー企業としては、Pag Seguro、Stone、Arco Educaçãoらに続くのアメリカでの上場となりました。上場時の市場価値はUS$14.9Bと推定され、Pag Seguroの同US$7.8B、StoneのUS$6.6Bを大きく上回りました。
XP Investimentosはブラジルの規制当局によるコンプライアンス問題を回避するために、上場プロセスは米国で実施された一方で、外国人投資家に優先権を与えました。また、米国でのIPOのメリットとして、「株式市場の発達度や投資家による高い評価」が一般的に挙げられますが、現地アナリストも「XP Investimentosにとってブラジル市場は小規模だった」と説明しています。
☆併せて読みたい☆
ブラジルで2頭目のユニコーン誕生!ブラジルのPagseguroがNYSEでIPO
Arco EducaçãoのNASDAQ上場とブラジルでユニコーンが多産な理由
Locaweb上場のニュースからの示唆
ブラジルのインターネット業界およびEコマース市場の成長に伴い、関連企業間の競争も激化しています。そこから一歩抜け出すうえで、事業開発への投資は不可欠であり、各ベンチャー/スタートアップが上場やM&Aによる大規模の資金調達を目指すことは、自然な流れとも言えるでしょう。その中で、特にスタートアップ企業にとって上場は高い壁でもあるため、M&Aがより一般的な資金調達・EXIT手段であると見られます。
また、株式市場に上場することは、同時に、より広範囲の株主から経営を「監視」されることを意味します。株価は株主からの「経営体制に対する通信簿」とも解釈できます。昨今は企業のガバナンスも重要視される中で、経営の規律を高める事は、事業を長期的に継続していく上でのインフラともなりえます。Locawebも、本業のテクノロジー面に加えガバナンス面でも他社と差別化を図れるかが、栄枯盛衰の際立つネット業界での生き残りの鍵となりそうです。
Locawebの企業ロゴ
参照
https://braziljournal.com/breaking-ipo-da-locaweb-sai-a-r-1725-mercado-paga-30-vezes-lucro
https://brazilian.report/business/2019/12/09/ipo-decade-xp-investimentos/
https://batonz-ventures.jp/articles/strategy/87/