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フォーラム便り vol.10 | ソフトバンク Felipe Fujiwara氏

フォーラム便りvol.1では、フォーラムの全体像と、ブラジルベンチャーキャピタルによるOpening Remarksを取り上げました。 vol.2以降は、全18セッションの模様をシリーズでお届けして参ります。今回は、ソフトバンク Felipe Fujiwara氏による「Brazilian Venture Capital Outlook」です!

ソフトバンク Felipe Fujiwara氏(写真左)とブラジル·ベンチャー·キャピタル代表の中山

セッション要旨

ソフトバンク言えば、昨年末にも、同社によるブラジルおよびアルゼンチンでの大型投資をお伝えしました。さらにUS$5Bの南米特化ファンド設立やグループ本体の「まっかっか決算」、Wework問題など、グローバル市場にインパクトを与えています。

今回のセッションでは、ソフトバンクグループのヴァイスプレジデントで、J.P.モルガンやスタートアップ、ベンチャーキャピタルでの経歴も有するFujiwara氏に、ブラジルおよび南米市場の見通しと自社の戦略について語って頂きました。

併せて読みたい

ソフトバンクの南米投資戦略に関する弊社記事 (Cnet)

南米では比較的大規模の投資戦略

基本の投資方針として、およそUS$30-100Mのレンジで、高い成長が見込めるテクノロジー関連に、独自の詳細な分析を基に投資をします。例えばブラジルでは、モビリティでユニコーンとなった99(ノビノビ)らに出資しました。ソフトバンクの南米部門は日本のグループ本体からは独立しており、3つのチームを構え、投資先選定、分析、そして承認のプロセスを経て投資します。マイアミやサンパウロを拠点とし、メキシコやアルゼンチンといった他の重点都市のローカル事情を把握出来る体制を取ります。ブラジル部門では、Andre Maciel氏が代表を務めます。グループ全体のリターン目標には従うものの、具体的な資源の配分や投資の決定については、現地の状況を加味するそうです。

差別化されたテクノロジーへの投資とポートフォリオ内のシナジー

投資先を選定する際、その企業の自動化技術が他社と差別化されいてるかがクライテリアの一つとなるそうです。現在では、データ処理や分析で固有のテクノロジーを提供するスタートアップへの投資を模索しているそうです。

また、現在のポートフォリオではフィンテックやシェアリングエコノミー分野への投資が中心ですが、それ以外のヘルスケアやアグリテック等の分野にも注目していきたい考えを示しました。規模としては基本方針と同様にUS$30M〜で、5年以内のユニコーン化を目指します。

また、ソフトバンクは、成熟期にあるスタートアップに焦点を当てています。これにより、投資先の事業を個々にゼロから構築支援するのではなく、ポートフォリオ内の企業同士のシナジーを生み出し、効率よく事業価値を高める事が可能だとしています。

ソフトバンク Felipe Fujiwara氏による「Brazilian Venture Capital Outlook」

OYOとブラジル事業展開の事例

ソフトバンクはインドのホテル系ユニコーンOYOにも出資し、同社はブラジルでも事業展開しています。ブラジルのホテル市場は、およそ85%がチェーンではない小規模オーナーにより運営されており、建築基準を満たすための設備投資も大きな負担となっていました。OYOの登場によって、20~30%から80%程まで利用率が改善しているそうです。OYOは、昨年度決算で3,600億円の純損失が報じられ(2019年11月27日付の英FT記事)、日本市場でも発展途上ではありますが、ブラジル以外の南米諸国にも同様のホテルに関する課題があると見られ、事業進出のオポチュニティがあるかもしれません。

また、ソフトバンクグループとしては、南米外の出資先企業に対して、南米市場進出を推進したいとも考えます。グローバル観点でのTech Campusも構え、投資先企業の南米展開に関して、直接投資するのか、人材を派遣するのか、ローカル企業と提携するのか、といった課題を整理しています。

OYOを例にとると、同社はインド系の企業ですが、ブラジルでは、現地の言語、市場、文化をより理解しているという理由からブラジル人が代表を務めます。日系企業の場合、その多くは日本から管理者を送り出すものの、現地の事情に十分に精通していない上にコストもかかり、結果として費用対効果が上がらないケースが散見されています。

OYOホテルのイメージ

ブラジル事業の日本および諸外国への進出

Gympassを例に取りながら、ラテンアメリカのビジネスをグローバルで成長させる上で、ブラジルで成功した事業を他国で展開する余地もあると同氏は語りました。例えばフィットネス関連は「健康」というカテゴリーで万国共通のニーズがあり、横展開がしやすいようです。

他にも、ARPACが日本のドローンファンドから出資を受けたように、世界有数の技術力を誇るアグリテック分野でも、ブラジルのスタートアップによる日本および諸外国への進出が増えていくことが期待されます。

Gympassのイメージ

LP投資によるアーリーステージの囲い込み

南米では、VCを通じてUS$300M規模のLP投資も行っているそうです。「バリュエーションは既に2倍以上だろう」と、ソフトバンク・ブラジル部門の代表も太鼓判を押していました。アーリーステージかつ小規模のベンチャーも囲い込むのが主な狙いとみられ、今後はポートフォリオがより多様化していく見通しです。

過熱感への慎重な構え

ここ数年で急成長を遂げる南米およびブラジルのスタートアップ市場ですが、ソフトバンクも投資活動を加速させる一方で、「急騰の後には急落が不可避」と過熱感への慎重な構えも見せていました。南米のスタートアップエコシステムの牽引役となるか、引き続きソフトバンクの動向に注目です。

Felipe Fujiwara氏の紹介

ソフトバンクグループのヴァイス・プレジデント。J.P. Morganのラテンアメリカ・アドバイザリー部門にて、FIG、TMT、ヘルスケア、コングロマリット、コンシューマー&リテール、および不動産などのセクターを対象に5年間勤務。Stone社の私募(2017年)やTelefonicaによるGVTの買収(2015年)など、20以上の案件に関与。その後、中小企業にクレジット・ソリューションを提供するフィンテックのMonetを設立。さらに、ソフトバンク入社前には、ラテンアメリカにおける上場および未上場企業向けのレイト・ステージ投資に特化した30Knots Capitalで勤務、現在に至る。サンパウロ大学にて産業工学の学士号を取得。CFA(2015年)。ポルトガル語および英語に堪能。