in フォーラム

フォーラム便り vol.14 | Space BD 永崎将利 氏

フォーラム便りvol.1では、フォーラムの全体像と、ブラジルベンチャーキャピタルによるOpening Remarksを取り上げました。 vol.2以降は、全18セッションの模様をシリーズでお届けして参ります。 今回は、宇宙・衛星事業を支えるSpace BDの永崎将利氏による「日本のスタートアップ」のセッションをご紹介します!

Space BDの永崎氏によるセッション

セッション要旨

第2回ブラジル・ジャパン・スタートアップ・フォーラムでは、主にフィンテックやアグリテックからのゲストをお招きしました。今回ご紹介するのは、ゲスト陣の中でも唯一、「宇宙・衛星」事業を手がけるSpace BDの永崎氏によるセッションです。民間主導による宇宙事業開発や、宇宙旅行に向けた動きが加速しつつある一方で、一般的には、宇宙は心理的にも遠く未知の存在である事も否めません。そこで、スタートアップの立場から宇宙分野の裾野拡大に向けて先陣を切った元ブラジル駐在の商社マンでもある永崎氏に、起業の経緯から、同社のコア事業、将来的なブラジル進出への展望などを語って頂きました。

会社概要

Space BDは2017年9月に資本金US$5.3Mで創業し、現在は東京とベルギーに拠点を構えます。累計の資金調達はおよそUS$3.7Mにのぼります。事業内容として、「衛星の打上げ」や「宇宙空間での実証実験」を目指す顧客に、宇宙空間にモノを運ぶための最適なプランを提示します。具体的には、「衛星打ち上げサービス」、「ISS実験サービス」、「宇宙機器調達販売サービス」、「プロジェクト型事業開発サービス」、「教育事業」といった事業セグメントを含みます。こうして、技術調整から打上げ実現、運用支援までを、トータルにサポートしています。また、宇宙利用の新たな可能性を開拓し、あらゆる産業に宇宙を開放する「プロジェクト組成」もコア・サービスの一つです。

2018年には、同社のサービスをより多くのユーザーがアクセスできるよう、宇宙利用全般を対象とした日本初のプラットフォームウェブサイト「Space for Space」もオープンしました。「宇宙開発の初心者からプロフェッショナルまで幅広い人・企業が訪れる場」として活用することで、より多くの企業による宇宙産業への参入、多様な産業とのコラボレーションによる革新的な宇宙事業の立ち上げを促進することが狙いです。例えば、人工衛星の部品・コンポーネント調達から設計製造、環境試験、打上げ、運用の支援、また国際宇宙ステーション等の宇宙空間利用に関する課題の解決に、ワンストップで対応しています(同社ウェブサイト参照)。

さらに、2018年にJAXAより国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟からの超小型衛星放出における、初の民間事業者として選定され、宇宙・衛星関連ベンチャーのパイオニア的存在となっています。

Space BDのチーム

起業の経緯

永崎氏は三井物産時代、2007年から2009年にバイオエタノールや鉄鉱石事業に従事しました。これらは三井物産の中核事業だったため、意思決定は多くの稟議を経て上層部へと上がっていき、自分でできることは限られていたそうです。意思決定者になれるかもしれない数十年後を待つより「マーケットに出てフルスイングした方が面白いことができるのでは」と考え、11年間勤務した三井物産を退社し、教育事業会社を設立し、17年に宇宙ビジネスへ転換しました。インキュベイトファンドの赤浦徹氏から、「宇宙業界では海外で次々と話を付けられるような昔かたぎの商社マンが求められている」と助言を受けた事がきっかけで、宇宙分野に着目したそうです。実際に、Space BDのメンバーは商社出身者が大半を占めます(Bloomberg記事参照)。

小型衛星市場とSpace BDのコア事業

SpaceWorksの調査によると、「小型衛星市場予測」において、世界の50キロ以下の衛星打ち上げ数(ポテンシャル値)は2019年のおよそ400機から2023年には745機にまで拡大すると見込みます。また、ユーロコンサルの調査によれば、同市場では2027年に2,858機と、その前の10年間と比較して約3倍に増える見通しとなっています。Space BDはロケット内の空いた空間に衛星を相乗りさせるロケット打ち上げ会社と衛星関連会社とのマッチングなども行います。こうしたサービスの世界市場は現在、アメリカ発Nano Racksなど欧米の約6社が占有しています。

こうした市場環境下で、Space BDは、2017年の会社設立からわずか8ヶ月で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が初めて民間開放した国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」の日本実験棟からの超小型衛星(50キロ以下)サービス事業者に選出されました。衛星打ち上げを希望する業者との仲介や技術サポートを支援しています。2018年3月には船外実験装置の利用を推進する民間事業者にも選ばれました。15カ国で運用する国際宇宙ステーション(ISS)は2024年までの継続が決まり、民間への移行も進められています。きぼうはISSで唯一、超小型衛星の軌道投入機能を持ち、200機以上の放出実績があります。衛星の開発・打ち上げコストの低下で、商用のほか一般人の趣味での「市民衛星」なども含めて、小型衛星の打ち上げニーズは拡大している模様です。(Bloomberg記事参照)Space BDは、スペースシャトル内の「微小重力環境実験事業」の商業化を目指します。

国際宇宙ステーション「きぼう」におけるJAXAとの事業提携実績

人工衛星の打ち上げから配備まで

世界的な潮流として、大型(主にアメリカ、ロシア、インド、日本製)および小型(主にアメリカ、日本製)のロケットから人工衛星が打ち上げられ、ISSに配備にされます。Space BDは、双方の打ち上げに対応しています。ISSきぼう関連の事業の事例では、高いコストパフォーマンス、信頼性、柔軟なスケジュールなどを強みとし、17の事業についてサービス契約の締結に至りました。

積極的なオープンイノベーションと中南米展開

Space BDのクライアントは、JAXAに限りません。例えば、2018年には、同社初の受注事業として、東京大学と業務委託を締結しました。さらに、上述の業界大手アメリカNano Racks社と、MOUを締結し、ISS商業利用におけるシナジー発揮に加え、次世代発展型の宇宙空間利用サービスにおいて、日米資産の商業利用を最大化する戦略的パートナーシップを深化させていくことについて合意しました。さらに、昨年にはブラジル・サンパウロ州に拠点を置くAirvantis社Lucas Fonseca CEO)ともMOUを締結しました。ISS「きぼう」の中南米地域における商業利用の促進を中心に、その他Space BDが提供するサービスも含めた、Airvantis社による代理店販売について合意に至りました(詳しくはこちら)。

Airvantis社(Lucas Fonseca CEO、写真左)と永崎氏

ブラジルでの事業構想

上段でAirvantis社との提携に触れましたが、セッションの最後に、ブラジルでの事業開発や提携の構想をお話し頂きました。例えば、「ブラジルの人工衛星向けの、日本製打ち上げ用ロケット」、「ブラジル向けの衛星データ管理」、「ブラジル発のスタートアップ企業の日本進出」などの場面で提携したい考えを示しました。

宇宙情報センターによると、「ブラジル宇宙局」は、ブラジル科学技術省の下の機関にあたります。空軍による宇宙開発を経て、1994年に設立され、首都ブラジリアに拠点を置きます。ブラジル国立宇宙研究所(INPE)とともに衛星および打ち上げロケットの国産化や地球観測を主とする宇宙利用の実用化を推進しています。初の国産衛星は1993年2月9日にペガサスXLブースタにより打ち上げられたSCD-1で、アマゾンの熱帯雨林を観測するための環境データ収集衛星でした。2番目が国産ランチャーVLSでの打ち上げに失敗したSCD-2Aで、1998年10月23日には、アメリカのペガサスHランチャーによりSCD-2衛星が打ち上げられています。このほか国産のリモートセンシング衛星SSR-1、中国と共同開発する地球資源探査衛星CBERSなどを打ち上げています。衛星打ち上げ用のVLS(Veiculo Lancador de Satelite)の開発を進めていましたが2回連続打ち上げ失敗で中断しています。年間予算は2009年度で約US$3.4Mでした。同年で比較すると、日本で約US3.1B$(2019年度はUS$1.7B)、米国でUS$41.5Bであり、11年前の統計ではあるものの、ブラジルの宇宙事業開発の伸びしろの大きさが伺えるでしょう(内閣府レポート参照)。

ブラジル事業展開の構想

おわりに

小型衛星は、例えば農業用ドローンを用いた農場分析などの場面でも大いに活躍するでしょう。アグリテック関連の参加者も、Space BDに対して大きな関心を寄せていました。Airvantis社との提携を皮切りにした、さらなるブラジル事業展開に注目です。

また、マクロ視点では、近年アマゾンの森林火災が世界的にも注目され、人工衛星を介した早急な分析と対策が求められています。また、ブラジル経済では、所得格差、失業、犯罪、医療、教育、さらに汚職など、優先順位の付け難い課題が山積し、政府としては、宇宙開発の重要性は認識しながらも、予算も時間も割きにくく、専門知識にも欠けているのが実情とみられます。Space BCのようなスタートアップが、高い技術力と機動力で、国の宇宙・衛星事業をリードしていく事に期待が高まります。

永崎氏の紹介

1980年生、福岡県北九州市出身。2003年、早稲田大学教育学部卒業、三井物産株式会社入社。人事部(採用・研修)、鉄鋼製品貿易事業、鉄鉱石資源開発(投資)事業に従事し、その間ブラジル、オーストラリアに計4年間勤務。2013年に独立し、ナガサキ・アンド・カンパニー株式会社を設立。教育領域における事業開発を中心に手掛け、主なプロジェクトはAOKI起業家育成プロジェクト、経済産業省起業家教育普及促進事業他。2017年9月、Space BD株式会社設立、代表取締役社長に就任。事業開発のプロとして宇宙産業に挑む。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員、横浜国立大学成長戦略研究センター連携研究員(同社ウェブサイト参照)。

示唆に富んだ貴重なご講演を有り難う御座いました!