フォーラム便りvol.1では、フォーラムの全体像と、ブラジルベンチャーキャピタルによるOpening Remarksを取り上げました。
vol.2以降は、全18セッションの模様をシリーズでお届けして参ります。
今回は、ARPAC社(農業ドローン)Eduardo Goerl氏によるブラジルのアグリテックのセッションです!
ARPAC社 Eduardo Goerl氏によるアグリテックのセッション
会社概要 | “ドローンで最適な農業を”
ARPACは、創業者であるEduardo Goerlが、エアバスA320のパイロットとしての自らの経験を基に、農業飛行の危険性や農薬散布の非効率性といったペイン・ポイントを解決すべく、2016年に創業しました。同社は、ハードウェア (ドローン) に加え、ソフトウェア (ドローン飛行のコントロールシステム)、およびフレームワーク (ソフトウェアの基幹コード) を所有しています。BASFはじめ、Coopercitrus、Raízen、Syngentaといったグローバル企業に対し、ドローン運用のヘクタール辺りの課金体制にてサービスを提供しています。出資者には、化学大手のBASF、弊社ベンチャーキャピタル、そしてフォーラムにもご登壇頂いたドローンファンドなどが名を連ねます。
◎ドローンファンドによるARPACへの出資に関する記事はコチラ!
ドローンによる農薬散布の強み | スポット・傾斜地・益虫
農地の広大なブラジルでは大規模農法が進んでいて、飛行機での農薬散布が一般的に行われています。またトラクター等を使った大規模な農薬散布も当然行われています。ドローンによる農薬散布が効果を発揮するパターンはいくつかありますが、ARPACが現時点でフォーカスしているのは「スポット散布」「傾斜地での散布」「益虫散布」です。
例えばサトウキビ畑では雑草が「木」のレベルで生えてしまい、収穫時に邪魔になります。この雑草に農薬を散布したいのですが、飛行機ではピンポイントで狙い撃ちをした散布ができません。これまでは人力に頼っていましたが、サトウキビは高さが3メートルにもなり、散布地までは文字通り林をかき分けていくことになります。効率も悪いですし、途中でコブラやイノシシに出くわすという危険も伴います。ドローンなら地図上で散布ポイントを複数個所マッピングするだけで自動パイロットで順次散布してくれます。
コーヒーの農地は日本の茶畑のような傾斜地です。飛行機は地面と水平に飛行するため、山の上部と下部で散布濃度が異なってしまうため、飛行機での農薬散布は限界があります。またサトウキビや大豆などの畑よりも小規模なこともあり、こちらも人手での散布に頼っています。こちらもドローンで細かく散布できることで大幅な効率改善が見られます。
最後の例は益虫の散布です。ブラジルでも化学農薬を減らす研究は盛んです。そのため、害虫を駆除のために益虫の卵を散布したいのですが、これも飛行機では風で飛んでしまうため、散布が難しい状況です。ドローンのように低空飛行ができることで効果的な散布が可能になります。
ARPACの競争優位 | 盤石のカスタマーサポートとエンジニアリング力
ドローンの最先進国が中国なのはこの業界の常識です。ブラジルにも中国製のドローンがたくさん入ってきています。ただ、ブラジルに対しての顧客サポート体制がほぼない状況です。中国のドローンメーカーにとってマイナーかつ遠い市場であるブラジルのために担当者をブラジルに置くことはなく、また現地代理店が顧客のクレームを中国本社に出しても対応されることは皆無と聞きます。
また、ドローンを飛ばすだけなら比較的簡単ですが、農薬や益虫散布となると散布のスプレイヤー等のアプリケーターの開発までは中国メーカーはやりません。散布のオペレーションも総重量制限から来るバッテリーと農薬の最適なミックス、言い換えれば飛行時間、飛行距離、散布する農薬量の最適値を状況に合わせて対応するといった業務効率が非常に重要になります。こうしたきめ細やかな対応を顧客ごとに行えるサポート体制とエンジニアリング力を持ち合わせた会社はブラジル内にはほとんどありません。事実、ARPACのもとには「中国のドローンを買ったんだけどうまく飛ばなくて困っている」という相談が多数寄せられています。
ROIからも読み取れるARPACの強み | 58%コスト削減
例えば100ヘクタールの圃場の場合、通常は、農薬散布の飛行機と農薬でおよそUS$2,125のコストが発生します。一方で、ARPACのドローンを使用すると、15%のスポット散布により、ドローン、農薬、モニタリングでUS$890程に収まり、58%のコスト削減が可能となります。農業情報設計社のセッションでも、「米国では10%以下の営業利益率である農家が7割」という事例が紹介されましたが、ARPACが提供するサービスの高いROIは農家にとって魅力的と言えるでしょう。
今後の方針 | 5都市を拠点に事業強化
KPIであるドローンの稼働面積は、2018‐2019年は500ヘクタール/週でした。2019‐2020年は3,300ヘクタール、将来は99,000ヘクタールの見通しだそうです。今後の方針として、Goerl氏は「2019‐2020年は農業の盛んな5都市を拠点とし、オペレーションおよび財務面を改善していきたい。2020‐2021年には、5都市それぞれにドローン3機を配備し、フランチャイズ・モデルを展開し、大型のドローンも投入したい」と、ブラジルでの事業強化への意欲を見せました。
示唆に富んだ貴重なお話を頂き、ありがとう御座いました!