ブラジルベンチャーキャピタルがブラジルの起業家が成功に至るまでの道のりを独占インタビューで迫る本シリーズ。
第三回のデータ処理効率化・モニタリングを支援するInmetrics(インメトリクス)の創業者Pablo Cavalcanti(パブロ・カヴァウカンチ)氏のインタビュー第二章です。
インメトリクスの設立前夜
Inmetrics社は2017年に設立15年を迎えます。
拠点はブラジルの他にコロンビアとチリに広がり、ラテンアメリカ地域のIT最適化の分野でリーダー核の企業に成長しました。創業から9年目まで年間85%の成長を続けてきましたし、規模が大きくなった最近3年間でも年間約40%の成長を続けることができています。
現在の私たちの事業分野は金融から小売など広範囲なセクターをカバーし、1000人以上の社員がいます。しかし、ここまでの過程では、時にはリスクを冒し、会社の存続をかけて、市場の激しい競争に打ち勝つ必要がありました。
以前述べたとおり、私は大学を卒業する頃には、既に起業する決意を固めていましたが、結局Inmetricsを起業したのは大学卒業の4年後でした。最初の4年間、1998年から2002年の頃、私も、大学の友人らもそれぞれの専門分野の企業に就職して働いていました。
私自身も企業に勤めながら、いくつかの新しいプロジェクトに挑戦しました。そのうちの一つで成功しかけたプロジェクトは記事のクリッピングサービスです。2000年に、数秒間で情報源を5000件、ニュースを10000件程度処理できるような、非常に複雑なプログラムをつくったのです。
当時、ブラジルは経済危機に陥っていて、ある時、1ドル2.3レアルから、急激に4レアルまでレアル安が進んだことがあったのですが、急激な通貨安が起きる2日前、ポケベルにドル高を予想するニュースが4本配信されたのです。私は自分たちの作ったプログラムを信頼し、大量にドルを買い、大いに儲けることができました。
しかし、これは商品化されませんでした。というのも、当時の勤務先のオーナーが、この商品化に後ろ向きな意見だったことが大きく、また、当時はこういったサービスを事業として独立して立ち上げられる環境がブラジルにはありませんでした。
もし、当時手軽な資金集めの手段があれば、このビジネスは成り立っていたかもしれませんが、2000年当時、スタートアップ企業の資金調達を実現するような、エンジェル投資家やシードキャピタルのようなエコシステムはブラジルには存在せず、また投資自体が非常にリスクの高いものだったのです。
このようなプロジェクトをいくつか立ち上げていく中で、あるアイディアが湧いてきたのでした。
情報量の爆発的な増加への社会ニーズ
私が勤めていた会社は、銀行に対してコンサル業務も行っていました。
私の役割は現状の情報システムの処理内容を調査・分析し、より少ない投資で、より高い業務効率が実現できるようなシステムの最適化計画をクライアントに提案することでした。
しかし、私が行っていたのはあくまでコンサルタントとしての業務だったので、やりたいこととやれることのギャップがありました。
当時は今日のような人工知能のブームが来るとは予想だにしていませんでしたが、さまざまな分野でシステムが処理する情報量が爆発に増えることは見通していました。
私たちは、利用可能なデータ量が膨大に存在するエコシステムでは、どこでエラーが発生しているのか、どの部分がスムーズに機能しているのかを見分けることがどんどん難しくなるというシステム化がもたらす新たな課題に着目しました。
そして、この問題を解決するために、情報システムをモニタリングできるソフトウェアを開発し、Cookpitと名付けました。
2001年、私たちは一年間かけて、銀行各社にCookpit を売ろうとしていました。
売り文句として、
『人類は1ペタバイトの情報を作りだすのに6千年かかりましたが、今後10年の間に更に1ペタバイトの情報を作り出し、その次の10年でもう4ペタバイト達成し、そのまた次の10年で更に8ペタバイトまでいくでしょう。金融機関もこの新時代に備えるべきですよ』
と言って回りました。
2001年時点で、銀行業界は国内の金融オペレーションを支える決済システム(SPB)の再編を検討していました。
当時既にこのシステムは、ブラジルの銀行間取引の80%という膨大なボリュームのデータを処理していました。
2017年では、この数字は恐らく95%程度まで上昇していると思いますが、何れにしても国内の金融市場にとって極めて重要なシステムです。そして、処理するデータ量はどんどん増えていたので、今後もデータ処理の効率化・スケールアップが不可欠なことは業界の共通認識として既に懸念されていました。
その意味では銀行業界は情報処理の最適化のお必要性が高いエリアだったのでCockpitに対するニーズが絶対にあるはずだと思っていました。
しかし、銀行各社は処理する必要のある大量のデータを適切にモニターする重要性についてはどうにか理解してくれましたが、サービス契約だったらまだしも、ソフトウェア商品であれば購入しないというような反応でした。
インメトリクスの創業と創業直後のピボット
会社員としてこのままCockpitの営業をしていくのが難しい状況になってきたため、2002年、私はとうとう起業を決意し、会社に辞表を出しました。
カンピーナス市にあるSoftexというインキュベーター施設に行き、そこで資金を貯め、2002年2月15日に開業資金12,500レアル(現在の為替レートで400万円強)で、Inmetricsを設立しました。遂に勝負にでるときが来たのです。
結局、Cookpit の営業で50社ほどを周ったのですが、なかなか思うようにソフトウェアを購入してもらうことはできませんでした。結果的に2002年にCockpitを購入してくれたのは1社のみで、たったの5万レアルの売上でした。
ただ、この営業活動の中でさまざまなニーズを知り、対応することができて、ソフトウェアの販売ではなく、サービスとしていくつかのクライアントからプロジェクトを受注することができました。
したがって結果として初年度の売り上げは合計30万レアルとなり、内訳は5万レアルのソフトウェア販売と25万レアルのサービス収入でした。
それまで常に製品を売ることに強くこだわっていた私たちでしたが、製品としては売れない事態に直面し、方針転換をし、サービスを売ることに決めたのです。
最終的にはクライアントが本当に求めているものに応えなくてはいけませんよね。
こうして会社の組織構成が全く変わることになりました。
事業の中心が製品製造と販売の場合、企業には研究開発、マーケティング、販売ルート、流通網などといった部門が必要です。
一方で、サービス企業に必要な部門は、非常に強力な人事部門、人材開発部門、そして規格・標準化部門、直接販売部門であり、異なる機能が求められます。
全く企業形態が異なるため、私たちは、ダーウィンの進化論さながら、社の生き残りをかけて状況に適応させてることになりました。
こうした事業形態とそれに合わせた組織形態のピボットを創業直後から余儀なくされ、必死に対応を行った結果、設立2年目も順調に事業を伸ばすことができました。
目標20万レアルに対して、60万レアルと前年比倍増の収益を上げられました。
3年目にも収益は倍増し、120万レアルの収益を上げました。
こうして事業を順調にスタートして、その後も9年連続で高い成長を続けることができました。
パブロ・カヴァウカンチ:
13歳の時にビルゲイツに憧れ、15歳の時にはハッカーとしてプログラミングにその才能を発揮し、父の経営する企業の会計システムを構築。大学でコンピュータサイエンスを学んだ後、4年後に大学時代の友人とインメトリクスを創業。自身の貯金450万円を投資した以降は外部からの大きな出資を受けることなくインメトリクスを成長させてきた。
インメトリクス:
2017年で創業15周年を迎えるインメトリクスはシステム全体をモニタリングすることで問題の早期発見・解決を行うことでクライアント企業の効率的なデータ処理を実現する。同分野では銀行や流通を含めブラジルではダントツのトップシェアを誇り、コロンビア・チリなどラテンアメリカ各国へ進出し成功を収めている。過去9年間毎年85%の成長を続け、規模が大きくなった直近3年では毎年約40%の成長を続けている。 従業員は1000人以上で売上規模は約100億円。