パブロ・カヴァウカンチ

in ブラジルの起業家

Inmetrics創業者インタビュー:システム最適化のトップ企業Part 3:CEOの役割と責任

ブラジルベンチャーキャピタルがブラジルの起業家が成功に至るまでの道のりを独占インタビューで迫る本シリーズ。

第三回のデータ処理効率化・モニタリングを支援するInmetrics(インメトリクス)の創業者Pablo Cavalcanti(パブロ・カヴァウカンチ)氏のインタビュー第三章です。

 

インキュベーターからの卒業

2002年から2004年は、休みを丸一日取った覚えがない程多忙でした。月曜の早朝に当時オフィスを置いていたインキュベーターの施設を出て、3時間程睡眠をとったらすぐにまたオフィスに戻るような生活でした。

また当時は、Inmetricsがインキュベーターを出なくてはならない期限が迫っていたので、その後の進み方について、どのようの生き残っていけるかを常に考えなければならず、非常に強い不安を感じていた頃でもありました。

2004年、私たちはその後の事業拡大をサポートしてもらえる投資家を探していました。

幸運にも、パトリック・シグリスト(iFood社の創業者で、Yellow Ventures社の共同経営者)が、iFood社の前身のDisk Cook社に投資した実績のある2人の投資家を紹介してくれ、投資を受けることができました。この投資の決定は非常にスムーズでした。パトリックが私たちの将来に太鼓判を押し、この2人に投資を勧めてくれたことが大きかったと思います。

当時の私たちは自信満々で、少し思いあがったところがありましたが、投資家は、私たちの粘り強さを見込んで評価してくれたようです。

思い出すのは、事業計画をプレゼンする中で、自分たちがGDPの1%に届くくらいの成長を目指したいと言ったら、投資家側のリーダー核で、経験豊富で著名な企業家が、「本気か?」と聞いてきたので、「若干下回ってもいいかもしれない」と答えると、くすっと笑みを浮かべたことです。

私たちは良い印象を残したようでした。

投資家は投資判断をする際に、必ずしも事業計画の良し悪しでなく、起業家をみているのだと思います。

この結果、Inmetricsの25%を40万レアルで売却することになりました。この数字は、交渉の結果、バリュエーションを160万レアルとした上でのものですが、勉強不足だったこともあるので、随分いい加減な見積もりでした。

何れにせよ、投資家から資金を調達し、無事インキュベーターを出ることができました。

 

合議制から脱却:29歳で社長としての責任を負う

当初、会社の意思決定は会議での役員全員でのコンセンサス方式をとっていました。全員一致が原則で、一人でも反対意見がある場合は決定できなかったのです。

ところが意思決定にスピードが求められたり、十分な根拠が揃う前に意思決定しなければいけない状況が増えてきて、次第に、このような緩慢な意思決定では企業活動が立ち行かなくなっていきました。

そこで2006年、私は会社に、最終的な決定権を持つ社長を置くべきと提案しました。

当時、一人一人が多忙となり、日増しに会議時間の調整すら困難になる一方で、決めるべきことは増えていたため、意思決定でリードする立場の人間が必要だと感じたのです。

私自身が社長に名乗りを上げたのですが、パートナーたちからは懸念の声が上がりました。自分が、競争心が強く、要求に満たなければ友人であろうとなんだろうと解雇するような性格だと知っていたからです。

私はパートナーに、全力でやりきること、そして謙虚に学び続けると約束し、これが守れなかった場合には解任してよいと伝えたところ、了解を得ることができました。

 

起業家に必要な要素

米国の著作家ナポレオン・ヒルは1910年の著作”The Law of Success”で、起業に必要な要素として、倫理観、勤勉、集中、規律、そして決断力を挙げています。これらを中途半端な形ではなく、しっかりと兼ね備えていれば、うまいことやっていけるでしょう。

そして、更に6つ目の要素に「誠実さ」があります。スティーブ・ジョブズも、この点で際立っていました。

先日、彼が講演する動画を観たのですが、その中で、一人の聴衆が、アップルとの争いについてコメントを求めたところ、ジョブズは暫く無言になった後、その聴衆の方を見て、

「できるだけの努力をしても、全ての人を満足させることはできません。確かに私たちは失敗してしまいましたが、今、それから学んでいるところです。誰も同じミスを犯したくないですからね。前に進み続けるのです。」

と誠実に答えていたのが印象的でした。

投資家は、起業直後の企業については、事業計画ではなく起業家を見て判断するものです。

成功する起業家は、必要とあれば、これまで行ってきたことを綺麗さっぱりやめて、全く新しいことをゼロから行うことができるのです。

例え周りから総スカンを食らっても、その起業家に根性があって、目が輝いていれば、その事業はうまくいくのです。

一方で、申し分ない経歴の持ち主で、一点の曇りもないような素晴らしい事業計画があっても、野心が少なければ、成功する可能性は比較的低いのです。

何日か前、若い起業家が参加するミーティングの場で、説教をしてしまいました。

というのも、誰一人として、先ほど申し上げた要素を知らなかったからです。

これは看過ならないと思い、

「少なくとも毎日1時間はニュースを読むなど、自分から学びとることが必要。また、ビルゲイツやウォーレンバフェットなどの企業家のように、読書習慣をつけるべき。身体と同様、頭脳も鍛えなくてはいけない。」

と言いました。

 

起業したての頃、友人で、現在Movile社CEOのファブリシオ・ブロイジに助言を求めたことがあったのですが、彼は一言、

「失敗は至極普通で日常茶飯事のこととして、自然に受け止めるべき」

とだけアドバイスしてくれました。

今になり、起業家の日々はまさにこの言葉通りと身に染みて感じています。

 

現在、起業家はもてはやされ、ある種のセレブの様にみられているようですが、成功の裏にはいろいろな犠牲がつきものです。

起業家を目指す若者は、この職業には、複雑な人間関係に悩まされたり、家族など大切な人の記念日に一緒に過ごせなかったりすることも多いなどの側面があることも理解しておく必要があるでしょう。

多くの人がイメージする起業家は、高級車に乗り、がむしゃらに働くことはなく、豪華な家に住み、愛人がいて、家族中を雇用して、グレーな商売を手掛けていて…といったところでしょう。

もちろん、このような起業家も存在するでしょうが、大半はそうではありません。

殆どの人は、何もないところから事業を始め、地獄のようなリスクと隣り合わせなのです。雑誌やSNSで見るような起業家たちから、このようなイメージが生まれたのでしょうが、実際は壮絶な自然淘汰の世界にいるのです。

この中で生き残ることができるのは、真の起業家のみなのです。

 

ブラジルにおける起業環境

統計上、ブラジルでは人口に対して起業家の割合は低い状況です。高いリスクを抱えることをよしとする人は少ないでしょう。

この国では、ビジネスを立ち上げた次の日に政府の取り締まりの対象になっている可能性すらあります。あらゆることをきっちりと行おうと努力したとしても、違法とみなされる可能性があり、役人から罰金を科されたり脅迫されたりすることもざらです。

労働訴訟が一つの産業と言っても過言でなく、例えば2年しか働いていない社員が100万レアル級(約400万円)の訴訟を起こすことすらあるのです。

資産が常にリスクにさらされているような国、その意味で、起業家にとっての逆インセンティブに溢れているのがこの国ブラジルなのです。

しかし、一つ言いたいのは、ブラジルのことを不平不満ばかり言っているような人間は、ビジネスでは上手くいかないということです。

 

少し前に、2人の若い起業家のメンターをしていたことがあります。

2人はソフトウェア会社の共同経営者で、特定分野のサービスでは国内唯一の会社でした。

大きなマルチナショナル企業から買収の提案があった際、2人がバリュエーションを500万ドルとする旨言ってきたので、私は

「そんな低価格では話にならないので、交渉は2000万ドルで始めて、落としどころを1000万ドルとすればいい!」

とアドバイスしました。

その後、2人はこの助言に従い、1500 万ドルで見事交渉を成立させました。このように、普段から勤勉に働き、良いチャンスが現れたときには、それを決して逃さず利用し、飛躍できることが重要だと思います。

 

自分を信じてくれる投資家は一人で十分

ベン・ホロウィッツの著書“The Hard Things About Hard Things”で、投資マーケットは一つのマーケットである、という言葉があります。

つまり、投資家を集めるときに、投資家を一人でも味方につければ十分、という意味です。例え20人がノーといっても問題ないのです。

Inmetricsはまさにこのケースでした。インキュベーターを出た当時、自分たちが頼ったのはたった一人の投資家でした。

当時はそのありがたさをよく理解していませんでしたが、今考えると自分たちは非常にラッキーでした。

あまり馬の合わない投資家だとか、自分たちの方針を嫌うような投資家が参加して、あらゆることがうまくいかなくなった可能性だってあったのですが、幸運なことに私たちの投資家は非常に理解ある人で、このような問題は起きませんでした。

 

起業パートナーの選び方

この問題は軽視されがちですが、非常に重要な課題です。

多くの人が、人間関係の親密さを基準に起業のパートナーを選んでいますが、ここで最も大切なことは、お互いが補完的な関係にあり、価値観を共有できるパートナーを選ぶことなのです。

私の場合、金儲けばかりを追い求める人と組んでいたら、成功できなかったでしょう。

また、パートナーを選ぶ際には事前に候補者とルールについて話合うべきです。

特にブラジルでは、往々にしてルールに従うのを嫌う傾向がありますが、この点ははっきりさせておくべきです。「まあ、やっていくうちに、帳尻合わせをしていきましょう。」といった形では長続きしません。

私のパートナーは、自分が社長に就任した後も様々な局面で助けてくれました。

例えば、社員が辞めた際、その退職理由に、社長である自分が非常に不愛想で不親切だったことを挙げていたので、パートナーから、もっと周囲の人間に親切であるべきと助言を受けることがありました。

これにははっとさせられました。確かに私は時間を惜しむあまり、挨拶をすっ飛ばして、すぐに本題に入ってしまうようなタイプです。

自分の性格からくる行動パターンを変えるのはとても大変ですが、それからというもの、これではいけないと思い、少しでも変えられるよう努力をしました。

 

パブロ・カヴァウカンチ

Pablo Cavalcanti of Inmetrics

パブロ・カヴァウカンチ:
13歳の時にビルゲイツに憧れ、15歳の時にはハッカーとしてプログラミングにその才能を発揮し、父の経営する企業の会計システムを構築。大学でコンピュータサイエンスを学んだ後、4年後に大学時代の友人とインメトリクスを創業。自身の貯金450万円を投資した以降は外部からの大きな出資を受けることなくインメトリクスを成長させてきた。

 

インメトリクス:
2017年で創業15周年を迎えるインメトリクスはシステム全体をモニタリングすることで問題の早期発見・解決を行うことでクライアント企業の効率的なデータ処理を実現する。同分野では銀行や流通を含めブラジルではダントツのトップシェアを誇り、コロンビア・チリなどラテンアメリカ各国へ進出し成功を収めている。過去9年間毎年85%の成長を続け、規模が大きくなった直近3年では毎年約40%の成長を続けている。 従業員は1000人以上で売上規模は約100億円。