フォーラム便りvol.1では、フォーラムの全体像と、ブラジルベンチャーキャピタルによるOpening Remarksを取り上げました。 vol.2以降は、全18セッションの模様をシリーズでお届けして参ります。 今回は、SP Ventures Francisco Jardim氏による「ブラジルのアグリテック市場」のセッションをご紹介します!
SP Ventures Francisco Jardim氏 (写真左)とブラジルベンチャーキャピタル 中山
セッション要旨
弊社ブラジルベンチャーキャピタルのブログでも、ブラジルにおける大規模農業とアグリテックの発展、日本のドローンファンドからのARPACへの出資、農業情報設計社によるブラジル進出など、お伝えして参りました。スタートアップ市場の中でも、農業はとりわけ持続可能な分野として注目されます。
今回のセッションでは、ブラジルのアグリテックにいち早く着目し、ベンチャーキャピタルの立場から農業技術の発展に寄与してきたSP VenturesのFrancisco Jardim代表に、同社のこれまでの歩みやブラジルの農業トレンド、今後の展望などについて語って頂きました (SP Venturesによるイノベーション研究会での登壇に関する記事はコチラ)。
会社概要
SP Venturesは、ブラジルにおけるベンチャーキャピタル投資の先駆者であり、Criatec I Fundの投資を担当するVenture Capital会社として2007年に設立されました。Criatec Iは、BNDESとBNBが率いるブラジルのベンチャーキャピタル産業の基盤でした。2007年から2013年にかけて、1,200社を超える企業が分析され、SP Venturesによって8つの投資が行われました。
主にアーリーステージの企業に出資し、イノベーションを通じて現状を変えようとする人々と提携しています。 経済的支援に加えて、経営へのコンサルティング、キーアカウントの募集とアクセス、ネットワーキングと資金調達まで、様々な支援を提供します。
SP Venturesは、サンパウロイノベーションファンド(FIP)を統括し、Desenvolve SP、FINEP、FAPESP、Sebrae-SP、CAF、Jive InvestmentsなどのLPを保有しています。 このファンドの総額はUS$105Mで、アグリテックはじめフィンテックやヘルステックといった分野にフォーカスしています。
現在は、ブラジルのイノベーションハブであるAgtech Valleyを拠点とし、アグリテック分野における主要なベンチャーキャピタルの1つとして、国際的に認められています。SP Venturesは、ブラジルのベンチャー企業向けの最初のクレジット商品を提供したBNDESが率いるBrazilian Venture Debt Fundなど、ブラジルのスタートアップ・エコシステムに寄与するプロジェクトにも取り組んでいます。
2008年から12年には8件、13年から18年には21件のディールをクローズしました。とりわけ13年以降は、Criatec Iのマネジメントを解消し独自のファンドを創立、ブラジルで上位5位のアーリーステージVCファンドを立上げ(13年)、ラテンアメリカで最大規模の13のアグリテック・ポートフォリオを創出するなど、堅実な発展を見せています。
チームは、大きく投資部門とオペレーション部門に分けられ、ベンチャーキャピタル、金融、農業や食といった幅広い分野で経験を有するメンバーで構成されます。Jardim氏自身も、ヘッジファンドや農業ビジネス等での経歴があり、スタートアップ市場への高い見識を有します。
Francisco Jardim氏とSP Ventures企業ロゴ
ブラジルの農業
ブラジルは、大豆、牛肉、鶏肉、砂糖、エタノールなど計7品目世界最大の輸出国で、トウモロコシは世界第2位の輸出量を誇ります。また、マクロ経済と比較すると、2012~17年の統計では、農業ビジネスは、GDPの成長率を常に上回ってきました。アグリテックが農業の生産性を高め、マクロ概況に左右されない安定した成長性を実現してきました。
土地の面でもブラジルは高い競争力を擁します。アマゾンを除いても70Mヘクタールの農地開拓の余地があり、農業に適した土地の面積は世界最大で、現状では国土の7.8%しか農業に使用されていません(米国では17.4%)。さらに、リサイクル可能な農業用水の量でも、アジア全体のそれに匹敵する強みがあります。
一方で、広大な国土により、気候や土壌は地域によって様々で、農業管理を複雑にしています。そこで、アグリテックの出番です。例えば、公的機関であるEmbraba (ブラジル農業研究組合) は、1973年に設立され、ブラジル国内42ヶ所に拠点を構え、専門家を配置しています。こうした努力により、各地域の大学は土壌、栄養、遺伝子、環境管理といった側面での研究開発力を高め、アグリテック発展の一翼を担います。実際に、サンパウロ連邦大学ESALQは、世界第5位の農業科学教育機関とされ、サンパウロのピラシカーバ市内のAgtech Valleyにおいてアグリテックの研究開発を推進しています。こうして、農業における課題は、見方を変えれば、大きなオポチュニティとなるようです。
Agtech Valleyにあるアグリテック関連のコワーキングオフィス
ブラジルのベンチャーキャピタル市場概況 | 2017年の転換点
ベンチャーキャピタル市場全体についても、2017年の転換点を例に語って頂きました。投資額は16年のUS$260Mから17年のUS$860M、ディール数は同期間で63から117、アクティブ投資家数は52から80 (15年対17年)といずれの指標も顕著な伸びを記録しました。一方で、アグリテック分野への投資は全体の23%と、増加の余地がありました。2018年以降にはユニコーンや上場企業も続々誕生しています。さらにラテンアメリカ市場へのハブ拠点としても、ブラジルはポテンシャルを備えていると見られます。
ブラジルのアグリテック市場
ブラジルには約400以上のアグリテック関連のスタートアップが存在し、農業の川上から川下までカバーしています。具体的には、農業の基礎となる作物や生育環境、農機具など研究開発→植え付けから収穫までの効率化→収穫後の最適な物流や在庫管理といった三段階を包括する強みがあります。
SP Venturesの投資戦略とポートフォリオ
前述の様な、川上から川下までおさえたブラジルのアグリテックを活かし、Sp Venturesは農業/家畜、化学/農業/食品という軸で投資を行います。例えば2018年第1四半期には66のアグリテックに投資し、その内訳は、マーケットプレイス、IoT、農業系フィンテックなど多岐に渡ります。同年には、177案件のうち、3件のクローズを果たしました。投資先には、フォーラムにもご登壇頂いたAegro、Agronow、さらにHorusといったスタートアップも名を連ねます。
ポートフォリオの一例
ケーススタディ | ポートフォリオ企業間のシナジーとスマート農業
スマート農業の一例として、AegroやHorusその他3社のシナジーが紹介されました。Horusのドローン、Aegroのオペレーションソフトウェアなど、投資先の技術を融合させて、スマート農業を実現しているそうです。
農業情報設計社の濱田氏にもフォーラムで語って頂いたように、「農業にまつわる事柄を一社単独で丸ごと管理」ではなく、オープンに、各スタートアップの得意分野を組み合わせて、農業効率化を図るという潮流を再確認しました。この点は、アグリテックに限らず、各業界共通と言えるでしょう。
Jardim氏の紹介
ラテンアメリカの大手アグリテック企業Sao Paulo Ventures(SPV)のCo-Founder兼マネージングディレクター。 34のテクノロジーベンチャー投資を率い、20以上の経営委員会に関与。 現在は、ラテンアメリカにおけるIoT、衛星画像、クラウドコンピューティング、マーケットプレイス、家畜管理、家畜繁殖およびブロックチェーン等のアグリテック企業の取締役を担当。さらに、ラテンアメリカ地域で初のベンチャー債務ファンド(BVD – Brasil Venture Debt1)の信用委員会に参画。 SPV創業前には、ホールセールバンキングおよびヘッジファンド業界で勤務し、自給自足用の農作物とサハラ以南の市場に焦点を当てたブローカービジネスも起業。 Endeavor Mentorネットワークのメンバーも兼任し、複数の公的および民間のイノベーションシンクタンクのアドバイザーとしても活動。
示唆に富んだ貴重なご講演を有り難う御座いました!
重要なお知らせ
第3回ブラジル・ジャパン・スタートアップ・フォーラムを2月14日(金)に東京で開催します。
ブラジルのフォーラムでご登壇頂いた日伯のスタートアップおよびベンチャーキャピタルからゲストをお招きし、「ブラジル市場の印象、今後の事業戦略や勝算」などを語って頂きます。ブラジルへの事業進出や投資をお考えの皆さま必見です!