ニュース要旨
自転車や電動スクーターのシェアサービスを展開するブラジルのYellow社と、電動スクーターを製造するメキシコのGrin社が合併し2019年に誕生したGrowは、3月11日に、南米の投資ファンドMountain Nazcaへの事業売却を発表しました。Nazcaは、ブラジルのPeixe Urbanoや、Gruponといった企業の筆頭株主でもあります。
Growの声明によると、ブラジルの3都市(クリチバ、リオデジャネイロ、サンパウロ)とアルゼンチン、チリ、コロンビア、メキシコ、ペルーの両方で事業を継続します。 Growのモビリティ担当副社長であったRoberto Álvarez Cadaviecoは、GrowグループのグローバルCEOに就任します。
つい先日、Growによるブラジル事業再編のニュースをお伝えしたばかりですが、経営はさらに悪化している模様です。シェアリング・モビリティ業界で一体何が起きているのか、探ってみたいと思います。
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News | 世界第3位のシェアリング電動スクーター企業Growがブラジル事業見直しへ
今回のニュースの着目すべき3点
1) Growは世界第3位の規模を誇りながら、先月の事業再編発表から、さらに業績が悪化したこと。
2) シェアリング電動キックボード・自転車への需要は、社会的インパクトも備え、手堅い一方で、売上規模よりも利益重視の経営が求められていること。
3) シェアリング電動キックボード・自転車市場では、他の主要なプレイヤーも高コスト体質に苦慮し、市場からの撤退や破産などのケースが発生していること。
Yellowの自転車とGrinの電動キックボード
事業売却の経緯
自転車や電動スクーターのシェアサービスを展開するブラジルのYellow社と、電動スクーターを製造するメキシコのGrin社が2019年に合併し、Grow社が創立しました。ソフトバンクによるUS$150Mの投資報道もありました。時価総額はポストでUS$700Mの見通しとなっています。
Growは、Mountain Nazcaへ事業を売却しましたが、ブラジルの主要3都市および南米諸国での事業は継続する計画です。「今後は、量よりも質、売上よりも利益を重視した経営に転換したい」とCadavieco CEOは語っていますが、具体的なコスト削減策やビジネスモデルの転換案などは示されておらず、収益性が今後どのように改善されるのか、不透明さが拭えません。
Growグループのグローバル部門CEOに就任するCadavieco氏
他社も苦戦
先日のGrowによる事業再編のニュースでお伝えしました通り、アメリカ発のシェアリング電動スクーター企業であるLimeも、わずか半年で、ブラジルからの撤退を決めました。累計でUS$455Mもの資金を調達し、月間のトップラインも+20%と順調に推移する一方で、修理・メンテナンス費用が嵩み、トータルでは赤字に陥っていました。
中国でもシェアリング電動自転車やスクーター市場は拡大する一方で、収益性で課題を残します。業界大手のOfoは、US$22Mを調達していましたが、破産に直面しています。2018年には、ソフトバンクと共同で日本市場に進出するも、わずか半年で撤退しました(ソフトバンクによるUS$10Mの投資報道もあり)。
ソフトバンクとの共同による日本進出から、わずか半年で撤退した中国大手のOfo
ニュースからの示唆
南米や中国はじめ、渋滞緩和や環境保護といった社会的な利益も含めて、シェアリング電動スクーターや自転車への需要は手堅いと言えるでしょう。一方で、管理や修理などにかかる高コスト構造によって、一社単独では、継続的に事業を運営し難くなっています。この状況は国や地域を問わず生じている事が、改めて浮き彫りになりました。
こうした事実を背景に、今後は、例えば「自治体からの後援」や「企業同士の合併」、もしくは「Uberのようなスケールメリットを通じたコストの吸収」といった、大きく3つの選択肢に分かれていくと見られます。また、「量よりも質、売上よりも利益」という指標は、事業の継続性を重視する上では、シェアリング電動スクーター業界に留まらず、他のテック業界にも当てはまりそうです。
参照