日伯投資家対談:インベスト・テック カルロス・ペッソア・フィリョ&BVC 中山充 Part 2

カルロス・ペッソア・フィリョ インベステックマネージング・ディレクター

ブラジル・ベンチャー・キャピタルのインタビューシリーズ。今回はブラジルのベンチャーキャピタル、インベスト・テックのマネージングディレクター カルロス・ペッソア・フィリョ氏と弊社代表 中山充の対談形式でブラジルのスタートアップ・エコシステムについて意見を交わします。 第二章では起業がブラジルのキャリアパスでどうとらえられているか、また、ブラジルのエンデバーやアクセラレータなどの参画でエコシステムがどう進化してきたかを語ります。   起業というキャリアパスの捉えられ方 中山:日本でも20年前は大企業や公務員としてキャリアを積むことを多くの人が「ベストな選択」と考えられていました。ただ、私が起業した2000年頃と比べると、日本でも最近ようやく起業という選択肢が一般化しつつあります。日本でも大企業が倒産したり、成功する起業家が増えてきてロールモデルと考えやすい人が増えてきていることが影響していると考えています。 ただ、私がブラジルではまだ起業をすることの意味合いや受け取られ方はまだ日本と大きな違いがあると感じています。私が2012年にベイン&カンパニーのコンサルタントとしてブラジルに来た時は、同僚が同社でコンサルタント業務に何年も身を置く人生計画を築いていることに気がつき驚きました。ベインという会社に勤める人はブラジルでも比較的リベラルな人ですし、ベインは企業文化の中に起業精神を十分に持っている会社なので。 しかも、1998年に私が日本のベイン&カンパニーに勤め始めた時は、自分のビジネスを始めるために誰が先に独立するのか皆が競い合っているような感覚すらあったので14年前の日本よりも保守的なのか、と。 ただ、当時はブラジルに来たばかりで、点でしか見えていなかったのですが、数年ブラジルに身を置くにつれ、ブラジルのアントレプレナーシップが進化してきていると感じています。逆に私が来る以前の2000年頃に比べるとそれでも2012年の状況は良くなっていたのかもしれません。 エンデバーでは具体的にはどのような施策をおこなったのか、詳しく教えて頂けますか? カルロス:実はエンデバーがブラジルで活動を始めたころに驚かされたのは、自らが起業していたり、起業家やスタートアップを相手に仕事をしている人々の数はかなりの数に及んでいることでした。ただ、やはりベインに行くような人とはちょっと層が違っていたかもしれません。 こうした当時のエコシステムに強く求められていたのは起業家として、もしくは経営者としてのトレーニングでした。エンデバーはそのような人材を集めて、全体のレベルアップを図るための取り組みを始めました。 2000年に私たちが最初に行ったイベントはジャングル・トレーニングと呼ばれたもので、当時のエコシステムに風穴をあけるものでした。それは、起業のブートキャンプのようなもので、ビジネスプランをデザインしなおすというものでした。 99... Read More

日伯投資家対談:インベスト・テック カルロス・ペッソア・フィリョ&BVC 中山充 Part 1

カルロス・ペッソア・フィリョ インベステックマネージング・ディレクター

ブラジル・ベンチャー・キャピタルのインタビューシリーズ。今回はブラジルのベンチャーキャピタル、インベスト・テックのマネージングディレクター カルロス・ペッソア・フィリョ氏と弊社代表 中山充の対談形式でブラジルのスタートアップ・エコシステムについてお互いの意見を交換します。 90年代の終わりブラジルにおいてスタートアップのエコシステムがどのように成長してきたのか、その後、ブラジルにおける起業家の意識やベンチャーに対する投資の意識に関して、この20年に起こった変化についてそれぞれの見解を話します。数多くのブラジルのスタートアップを見てきている投資家側の視点からブラジルのスタートアップ・エコシステムの発展過程と今後の展望についての一つの視座となれば幸いです。   Carlos... Read More

bxblue創業者 グスタヴォ・ゴレンスタイン インタビュー Part 3

bxblue創業者 グスタヴォ・ゴレンスタイン

ブラジルの起業家に幼少期から成功までの道のりを語ってもらうブラジル・ベンチャー・キャピタルの独占インタビューシリーズ。 今回はポウピ(Poup)を起業後売却し、現在2つ目のスタートアップとなるベーシスブルー(bxblue)というフィンテックのスタートアップを立ち上げたグスタヴォ・ゴレンスタイン氏のインタビューです。 bxblueはシリコンバレーのYコンビネーターのプログラムにも参加したスタートアップで、私どもブラジル・ベンチャー・キャピタルもYコンビネーターに投資を受ける前の段階で出資しているスタートアップです。   第三部ではグスタヴォが現在立ち上げているbxblueでの経験をYコンビネーターのプログラムの内容を含めて語ります。   新たな可能性の世界へ 新しいビジネスを考える前に、私が自分自身に問うたことは「私は一体誰と起業をしたいのか?」私にとってそれが一番大切なことだったのです。私の頭の中には、少なくとも10人のアントレプレナーのリストがありました。その中の2人は、ソフトウェア製造会社でカルロスの元共同経営社だったファブリシオ・ブゼット(Fabricio... Read More

bxblue創業者 グスタヴォ・ゴレンスタイン インタビュー Part 2

bxblue創業者 グスタヴォ・ゴレンスタイン

ブラジルの起業家に幼少期から成功までの道のりを語ってもらうブラジル・ベンチャー・キャピタルの独占インタビューシリーズ。 今回はポウピ(Poup)を起業後売却し、現在2つ目のスタートアップとなるベーシスブルー(bxblue)というフィンテックのスタートアップを立ち上げたグスタヴォ・ゴレンスタイン氏のインタビューです。 bxblueはシリコンバレーのYコンビネーターのプログラムにも参加したスタートアップで、私どもブラジル・ベンチャー・キャピタルもYコンビネーターに投資を受ける前の段階で出資しているスタートアップです。   第二部ではグスタヴォの最初のスタートアップ、Poupの起業に至るまでのストーリーを語ってくれます。   ブラジル帰国後のチャレンジ ビジネスを始めようと、ブラジルに戻りました。コカ・コーラから魅力的なプロポーザルがあり、アップル、Googleなどからも魅力的なチャンスを頂きました。でも、私は当初のプランを揺るぎなく維持していました。そして、私が今何をしているのかと誰かに尋ねられた時の答えは、「失業中だよ」というもの。実際に動かしているプロジェクトがない限りは、起業をしているのだとは言いたくなかったんです。このような返事しかできないことは私にとってとても苦痛でした。 私はブラジルのスタートアップ関連の人を誰も知りませんでした。なので、その業界のイベントに行き、その道の人たちと会話をするように務めました。私はこのように話しました。「ロンドンから戻ったばかりなんです。(当時ブラジルではまだあまり普及していませんでしたが)リーン・スタートアップのようなセオリーに関して修士号を取りました。具体的に助けが必要でしたら、講演会もできますよ。」 すると、スタートアップ・ファームのようなアクセラレーターから呼ばれるようになり、このエコシステムをより知るようになりました。 ロンドン時代に、イラン・ベン・サバットという名のイスラエル人の大親友ができました。彼は一緒にプロジェクトをやるよう提案をしてくれました。「そのビジネス自体がうまく行くかどうかなんて重要じゃないんだ。そうじゃなくて、我々の議論を続けて一緒に何かをやろうじゃないか!」 私は了解し、リサーチを行いました。彼はロンドン出身で、私はブラジル人。私たちのリサーチの中で、Quidcoというキャッシュバックを行うロンドンの企業に注目しました。キャッシュバックのビジネスコンセプトは2011年のブラジルでは新しいものでした。ブラジルではようやくPeixe... Read More

bxblue創業者 グスタヴォ・ゴレンスタイン インタビュー Part 1

bxblue創業者 グスタヴォ・ゴレンスタイン

ブラジルの起業家に幼少期から成功までの道のりを語ってもらうブラジル・ベンチャー・キャピタルの独占インタビューシリーズ。 今回はポウピ(Poup)を起業後売却し、現在2つ目のスタートアップとなるベーシスブルー(bxblue)というフィンテックのスタートアップを立ち上げたグスタヴォ・ゴレンスタイン氏のインタビューです。 bxblueはシリコンバレーのYコンビネーターのプログラムにも参加したスタートアップで、私どもブラジル・ベンチャー・キャピタルもYコンビネーターに投資を受ける前の段階で出資しているスタートアップです。   第一部ではグスタヴォの学生時代の”起業家”としての原体験を語ります。   Gustavo... Read More

Ciatech創業者マルセロ・サトウ インタビューPart 3: Ciatech売却と新たなキャリア

CiaTech創業者マルセロ・サトウ

ブラジル・ベンチャー・キャピタルの起業家インタビューシリーズ。 企業向けのエデュテックで大きく成長したCiatechをブラジルのデジタルビジネス大手UOLに売却したマルセロ・サトウ氏のインタビューの最終章です。自分で長い年月をかけて育ててきた事業を離れる難しさとその後のキャリアについて語ります。   社内体制の強化の必要性 わが社に関心を寄せる海外投資ファンドが現れたことで、会社の大きな弱点が明らかになってきました。それは、これまで深く考えたことのなかったマネージメントやガバナンスといった点でした。これまで、外部株主がいなかったために、独立的に会社を運営することができていたのは非常に良かったのですが、そのままでは企業が成長するにつれて、十分な体制とは言えなくなってきました。 海外の投資ファンドは将来の事業計画を求めてきましたが、社内には日々の支払と請求を行う経理的な機能しかなく、会社の将来を計画を立てて考えるということを全くしてきませんでした。結局、この弱点によって、会社のバリュエーションが本来あるべき企業価値よりも20%から30%も低く見積もられてしまいました。 当時、私は会社のIT部門を、アレックスは営業面を担当していましたが、これらの弱点を克服すべく、2011年の人事異動で私の部下だったIT部門の部長を私のポジションに昇格させ、私がファイナンスの担当役員となることにしました。同時に、ある程度の規模がある企業に相応な社内システムを導入しました。 こうした経営企画面での強化によってCiatechは予想以上の成長を遂げることができました。当時数億円だった売上規模を3年間で倍増させることができたのです。 それまでは事業計画など考えずにやってきたのですが、将来を見据えることで必要な投資などの施策を早い段階で打つことで企業の持つポテンシャルを最大限発揮させられること重要さを肌で感じました。   新たなパートナーの参画 2011年から2013年、会社は更なる飛躍を遂げました。私が財務担当役員として社内体制を整えたことに加えて外部から株主が新たに参加したのです。 アレックスはブラジルの起業家コミュニティのイベントなどに頻繁に通っていましたが、Endeavorが催したイベントでアステラ・インベストメントというファンドのトップであるエジソン・ヒゴナッチと知り合いました。エジソンはメンターとなり、私たちになかった視点で様々なアドバイスをくれました。 その後、エジソン率いるアステラが2012年に出資し、株主として一緒に会社を成長させていくパートナーとなります。このパートナリングによってCiatechはまた一段高いステージにレベルアップすることができました。 Ciatechそ創業した当時は自分達から投資家を探すということはしていませんでしたし、その必要もありませんでした。また、当時のブラジルのスタートアップに対する投資環境も未熟なものでした。 しかしブラジルのスタートアップへの投資環境は大きな変化を遂げており、成長のための資金調達がしやすい環境が整いつつありました。エジソンが投資家として十分な経験があったことで、ファンドとのやり取りもスムーズに行うことができるようになりました。 私たちは事業計画を収益源ごとの実績に基づいてファイナンシャルにも、オペレーショナルにも立てることができるようになり、「もし1000万レアルあったら何に投資するか」といった質問にも答えられるようになりました。エジソンが入る前はとてもそんな質問に答えるスキルも準備もありませんでした。 こういった質問に答えることは自分たちにとっても重要なものでした。これまで自社のオーガニックな成長のみを考えてきたのですが、投資を受けることでその成長を加速させることを考えられるようになったからです。投資家たちが好んで使う「指数曲線的な成長」という観点と投資を結び付けて話せるようになりました。 Ciatechは創業当初から大手のクライアントのプロジェクトを受けることができたこともあり、それまで自社の利益だけで成長を続けてきました。そして、私たちの目的も大金を手にすることではなかったので、こうした投資家と話をしたものの、1レアルも必要ではありませんでした。 その後、ブラジルのオンラインビジネスのコングロマリットであるUOLが私たちにアプローチしてきました。Ciatechは資金を必要とはしていませんでしたが、UOLは教育部門のホールディングカンパニーを立上げ、インターネットの教育事業のリーダーになるという大きな戦略を打ち出しており、そのために傘下に置く事業とともに教育事業全体をリードする経営陣を探していたのです。 こうしてUOLとの話を定期的に行う2012年の年末頃、別のベンチャーキャピタルからの出資の話も並行して進みつつありました。私もアレックスもCiatechを売却するということに抵抗があったのです。しかし一方では、今後事業を違うレベルで拡大できるようなパートナーを必要としていることも理解しつつありました。 この時点でCiatechは企業向けのオンライン研修市場の大手プレイヤーの1社となっていました。創業から16年間、アステラの投資を受けるまですべて自分たちの資金で成長してきました。しかし同時にこのままどこまで成長するのか、本当に自分たちだけで頂点に立てるのかという懸念もありました。 私もアレックスも大学の卒業前から心血を注いできたCiatechを売ることには当然抵抗がありました。私たちの卒業制作でもあり、私たちの最初の子供でもあり、会社自体を愛していました。Ciatechで10年以上をともにした仲間である家族のようなエンジニアが何人もいるわけですから。事業をはじめた時とは真逆で、非常に難しい決断を迫られていると感じていました。 しかし、こうした要素をすべて考えた上で、ここまでの長い道のりを振り返りつつ、目の前にあるオポチュニティを考えた時に、今後の事業をより安心して進められる、リスクを最小化する決断をしました。 最終的には大きな買収金額のオファーを受けたことに加えて、UOLとともにブラジルのインターネット教育事業のリーダーとなるという可能性も含めて、UOL... Read More

Ciatech創業者マルセロ・サトウ インタビューPart 2: 急成長の先に何があるのか?

CiaTech創業者マルセロ・サトウ

ブラジル・ベンチャー・キャピタルの起業家インタビューシリーズ。 企業向けのエデュテックで大きく成長し、ブラジルのデジタルビジネス大手、UOLに高いバリュエーションで売却を果たしたCiatechの創業者、マルセロ・サトウ氏のインタビュー第二弾です。 ピヴォットを繰り返しながらようやくやりたかった事業領域で成長軌道に乗り始めたところで経営陣内でのビジョンの違いという問題に突き当ります。   Ciatechの成長 2000年と2001年はCiatechにとって大きく飛躍する年になりました。金融機関向けに様々な製品を供給するようになったのです。当時銀行が欲しがっていたのはカタログでも研修用のコンテンツでもなく、インターネットバンクのインストール用CD-ROMでした。ブラジルでもインターネットバンキングを普及させることで顧客が店頭にいく必要性を減らし、銀行のコスト削減につなげたいという流れが加速しつつありました。 さらに、当時は多くの人がインターネットに不馴れであったため、このCD-ROMにインターネットバンクの設定から利用までの手順をインタラクティブに説明する機能もつけました。このインストラクション機能付きCD-ROM商品は最初ウニバンコ銀行で採用されて成功を収めると、イタウ銀行、ブラデスコ銀行等々、続々と他の銀行からも引き合いがきて、Ciatechのヒット商品になりました。 ただ、当時のCiatechはインターネット企業ではなく、開発はすべてオフラインでしたし、製品もオフラインであることをベースに作られたものしかありませんでした。私たちはオフラインベースの商品からオンラインベースの商品へシフトチェンジをする必要性を感じ始めました。 しかし、問題だったのはクライアント側とは温度差でした。当時はまだインターネットのようなオープンなネットワークには懐疑的な見方もあって、イントラネットのような閉じたネットワークでのサービスを求められていたため、当面はイントラネット分野の開発を進めることにしました。そしてこの流れが、将来的にはオープンなオンラインサービスの開発につながることになります。 わが社の最初の成長時期がサンパウロ市内に越した後の2000年以降とすると、第二の成長時期はオンラインサービス事業に参入した2000年から2006年の頃と言えるでしょう。クライアント企業も徐々にオープンなインターネットへ様々なことを移行する時期がやってきます。 この頃、ナイキや大手タイヤメーカーのPirelliやContinental... Read More

Ciatech創業者マルセロ・サトウ インタビューPart 1: Ciatechの創業

CiaTech創業者マルセロ・サトウ

ブラジル・ベンチャー・キャピタルの起業家インタビューシリーズ。 企業向けのエデュテックで大きく成長し、ブラジルのデジタルビジネス大手、UOLに高いバリュエーションで売却を果たしたCiatechの創業者、マルセロ・サトウ氏のインタビューです。 起業当初のアイディアは成功を収めるまで何度もピボットするものだと言われますが、Ciatechの場合もまさにその代表例です。どのような変遷を経て現在の業態に至ったのか、第一章では創業当初の試行錯誤の様子を語ってくれます。 マルセロ・サトウ(Marcelo... Read More

Esporte Interativo創業者インタビュー:スポーツビジネス界の風雲児Part 3:スポーツ業界での起業を目指して

エディガル・ディニズ

ブラジル・ベンチャー・キャピタルの起業家インタビューシリーズ。 ブラジルで新規参入の難しいメディア・コンテンツ業界でエディガル・ディニズの企業から米タイムワーナーグループのターナー社へ売却までのストーリー。 最終章では自分が育てた企業を売却するに至る背景が語られます。 最後の起業家へのメッセージは国を問わず示唆に富みますので是非参考になさってください。   インターネット配信へのチャレンジ スポルチとして独立したチャンネルでの配信後も、困難な状況は続きましたが、何とか営業を続けられるだけの収益が入ってきましたが、私たちの独立したチャンネルではなかなか視聴者数が増えずにいました。 一方で、国内の有料ケーブルテレビの契約者数はかなり上昇していました。ケーブルテレビのチャンネルの一つとならなければ、他の企業に遅れを取るのは目に見えていました。 しかし、そこから段々と競争や妨害が激しくなりました。特に、元クライアントだったグロボからの妨害は厳しいものでした。 グロボテレビは非常に大きなテレビ局で、重要なコンテンツも持っているので、有料ケーブルテレビ部門である、グロボサット(Globosat)という子会社は大手有料テレビ局のスカイ(Sky)やネット(Net)といったケーブルテレビ会社のコンテンツ選択に影響力を持っていました。 ケーブルテレビ会社自体がコンテンツを自由に決められず、グロボにどのコンテンツを入れるか相談しなければいけなかったのです。グロボは私たちと同じコンテンツ配信会社ですので、競合に命運を決められている状況でした。 結果的に、私たちのチャンネルをケーブルテレビのメニューに入れることをグロボが拒否し、無料でコンテンツを提供したとしても番組枠に入れてもらえないことがわかりました。 厳しい状況でしたが、持っているコンテンツの視聴者を増やす方法を検討していく中で、インターネットを主軸にしはじめました。 2012年、すでにアメリカではネットフリックスがオーバーザトップというストリーミングでのコンテンツ配信で成功していました。私たちは同じくストリーミングの配信モデルでをエウ・プラス(El Plus)というコンテンツを提供し始めました。 この1年後にネットフリックスがブラジルに参入してくることになり、ブラジルで初めてのストリーミング配信を私たちがやることができたのです。   戦略的パートナーによる状況の打破 エスポルチ・インテラチ―ヴォはゴールドマン・サックスに依頼して戦略的な資本提携先を探し始めました。 当時、HDテクノロジー導入などで投資が必要だったので、海外の大手パートナーを株主に迎えることで資金力を増強するとともに会社としての影響力を増して、大手ケーブルテレビとの取引を有利にしようと考えてのことでした。 2013年の半ばにはタイムワーナーグループであるアメリカのターナー社から約7千万レアル(約25億円)の出資を受け、エスポルチの株37%を保有する株主として迎え入れました。 しかし、私たちの考えとは裏腹に、ターナー社参画後も他の企業の抵抗は続いたため、現状を打破すべく大きな投資に打って出る必要があったため、2014年のチャンピオンズリーグ独占権を買い取りました。 これまでもチャンピオンズリーグの放映権を購入してきましたが、それまでの契約には独占権もなく、民間放送でしか放映出来ないという制限付きでした。ブラジル内での競合もほとんどなかったので、契約金額もいまにしてみれば非常に小さなものでした。 ただ、この2013年を超えたあたりではケーブルテレビも力をつけていましたし、私たちが過去に持ってきたことでチャンピオンズリーグがブラジルで十分収益をあげられるコンテンツだということが証明されていたので、同じ条件の放映権ではケーブルテレビや競合でも放送できてしまうために、私たちの独自性を打ち出せないという問題がありました。 ネットフリックスに先立って始めたインターネット配信も当時はタイミングが早すぎて十分な事業に育っておらず、インターネットがブラジルに普及していれば、有料ケーブルテレビとは独立した形で事業を続けることができ、また違った結果になっていた可能性も大いにあると思いますが、当時の状況ではスカイやネットを使わずに競争に残るのは無理でした。 しかし、この投資は自己資金だけではまかないきれない金額だったため、ターナー社から更なる出資を受ける必要が出たため、すでにターナー社の株式持ち分も大きく、これ以上の出資を受けた場合に、私達が小数株主としてとどまるメリットもないと判断し、エスポルチの100%をターナー社に売却しました。   エスポルチ・インテラチ―ヴォとしての成功 株主ではなくなったものの、引き続きエスポルチ・インテラチ―ヴォの経営陣として指揮を執り続け、チャンピオンズリーグという人気コンテンツの独占権利を得たことで、ネットやスカイはエスポルチ・インテラチ―ヴォを有料チャンネルの番組枠に入れずにはいられなくなっていました。 視聴者の猛烈な要望を受けたのでしょう、最初にネッチが、その後スカイが、それぞれエスポルチ・インテラチ―ヴォをチャンネルの一つとして受け入れることになりました。 また、翌年の2013年には、会社設立最初の大きなプロジェクトであったリガ・ノルデスチの復活という喜ばしいニュースもありました。10年間にも及んだ裁判が終わり、また私たちがこのリーグの運営に参加することができるようになりました。出資を受けた結果エスポルチ・インテラチ―ヴォとしては大きく前進することができました。   新たな始まり 最終的に会社の100%の売却が完全に終了したのは2015年2月でした。 それから更に1年間、経営に携わりましたが、また新しいプロジェクトを始めるべく、家族と一緒にアメリカのシリコンバレーに引っ越しました。 かねてよりシリコンバレーの生態系、シードアクセラレーターやキャピタルベンチャーについてもっと深く知り、新しい起業家達とのネットワークを作りたいと強く考えていました。 その後、小さなスタートアップへの投資を行って経営のサポートをしつつ、自分で新しく起業する為の準備をしています。 今年の初めにアメリカからブラジルへ戻ってきて、本格的に事業を立ち上げる準備を進めています。今度の事業はシンプルに言えば、様々なスポーツ関連の組織がで簡単に動画配信できるようなオンラインプラットフォームのサービスを考えています。 起業や新たなサービスを提供してきた中で思うのは、やはり自分はグローバル大企業で働くのには合わないといことです。自分が経験したからこそ言えることですが、大企業の社内政治は起業をするのに必要な自由と自主性を奪ってしまうのです。結局、社内のマネジメントに多くの時間を費やしてしまい、新しいことが出来なくなってしまう。 エスポルチ・インテラチーヴォの成功の秘訣は、社内調整に私達の時間をそれ程使わずに成長できたことだと思います。私がプロジェクトに携わったり取引するなどで垣間見てきた他の大企業はその部分でいつも非常に難しい状況にあると思います。   ブラジルスタートアップのエコシステム 私が起業を始めた90年代後半に比べると、今のブラジルはスタートアップが発展しやすい、非常によいエコシステムができていると思います。勿論、シリコンバレーには程遠いですが、基本的な考え方・土壌がが違うので、単純に比べられないと思います。 ブラジルのスタートアップが更に発展するには、文化的な要素が変わっていかなければいけないと思います。例えば、私自身の経験を例にすると、ターナー社を退職すると決めた時、沢山の人から良い役職、良い給料を貰っているのに、何が不満なんだと聞かれました。 私は今、大企業からの招待を断り、就職先を敢えて探さずに、ゼロから新しいことを始めようとしています。この様な考え方は、ブラジルでは自然だと思われません。まだまだブラジルでは、起業家になるのは良い仕事に就けなかった人だとすら考えられてしまう偏見がまだあるように思います。 シリコンバレーでは起業家が次から次へと新しいプロジェクトを始め、多くのプロジェクトが失敗に終わる中で、少数が成功します。重要なのは多くの人がたくさんのプロジェクトを始めることです。 もしブラジルが、起業に関する手続きを簡易化してくれれば、だいぶ良くなるとは思います。例えば会社設立手続きの官僚的なところや、複雑な税制の簡素化などが行われるとブラジルのエコシステムもさらに良くなると思います。   起業を志す人へのアドバイス 起業を始める前に、起業してからの困難に対して現実的に考える様に心がけてください。 明日の保証がない人生を生きる覚悟が必要です。 エスポルチの歴史を振り返っても例外ではなく、私達は何度も新たなことをゼロから作り上げることをを繰り返さなければいけませんでしたし、資金が切れて倒産する寸前まで行ったことも1度ではありません。 その反面、自分の努力が実を結ぶのを見るほど人生で嬉しいこともありません。特に、自分自身のパッションに基づいて活動しているのであれば尚の事です。 シリコンバレーのベンチャーキャピタルがよく言うことですが、起業家には2種類、「ビジョナリーとマーセナリー」がいます。 ビッグビジネスにまで発展するのは最初のグループでビジョンや夢を実現すべく始めたビジネスで、最初から金儲けが目的となってしまっているビジネスはそれほど大きな成功を収めることはありません。あなたにはお金に関係なく、本当にやりたいことはありますか?   起業家達へ三つのメッセージ 「壁もありますが、ブラジルはビジネスチャンスが沢山あります。この国には色々な分野に置いて、大きな市場がありますが、それと同時に、現状のサービスのクオリティがまだまだ低いので、それを解決するニーズがあり、そこにビジネスチャンスがあるのです。」 「私自身、まだまだ起業するエネルギーもありますし、次の事業ではまた異なったアプローチをするとは思いますが、一つだけ、確実なことがあります:私は絶対に縦割りの大企業で働きたくありません。大企業の社内政治は、起業をするにおいて必要な自由や自主性を奪ってしまう可能性があるからです。 「起業を始める前から、起業後の困難に対して現実的に考えることはとても重要です。そして、保証のない明日を生きるには、自分自身を良く知る、という準備がとても重要になってきます。」 エディガル・ディニズ(Edgar... Read More

Esporte Interativo創業者インタビュー:スポーツビジネス界の風雲児Part 2:スポーツ業界での起業を目指して

エディガル・ディニズ

ブラジル・ベンチャー・キャピタルの起業家インタビューシリーズ。 ブラジルで新規参入の難しいメディア・コンテンツ業界でエディガル・ディニズの企業から米タイムワーナーグループのターナー社へ売却までのストーリー。 第二章では企業から安定した収益減を得るまでの試行錯誤の様子が語られます。   大企業との争い ヴィトリアとのプロジェクトのお蔭で、私達はブラジルのクラブが年間を通してどの様に動くのかを理解しましたが、そこで驚いたのは、クラブが競合チームが2つしかない州大会に6ヶ月もの期間を費やしていたことです。 競合が二チームしかないので、最初からどのチームが決勝に残るのかを分かっているわけですから、大会の大部分を盛り上がりに欠ける消化試合のようなものなのです。そこにたくさんのチームが年のほとんどの時間を費やしていたのです。 その現状を見て、新しい大会の開催を考えました。2年前に成立していたペレ法により、独立リーグの立ち上げが合法化されていたので、大会開催自体は法律的には可能でした。... Read More