2020年のブラジルのスタートアップシーンの展望

ブラジルの2019年の残り8時間。日本では2020年が明けたこのタイミングで、今年も2019年を振り返りつつ、2020年の展望をブラジルのスタートアップシーン、弊社ブラジル・ベンチャー・キャピタル、また、自分自身についてまとめてみたいと思います。   【ブラジルのスタートアップシーンの展望】 まずは2019年の答え合わせ 私が予想した2019年の動きは大きく以下の通りでした。 1.ベンチャーの資金調達時の企業価値の上昇 2.大型の資金調達を行ったスタートアップによるスモールExit急増 3.骨太の連続起業家誕生への期待   1.ベンチャーの資金調達時の企業価値の上昇 予測:ベンチャー市場への資金流入が増え、ファミリーオフィス含むセミプロが増えることでバリュエーションがあがる 結果:予想通りベンチャー市場への資金流入は大きく増え、VCからのスタートアップ投資だけで1500億円規模になりました。ユニコーンは5社増え、数百億円規模のバリュエーションのスタートアップもさらに10社程度増えています。ソフトバンクは2019年も積極的でした。 2.大型の資金調達を行ったスタートアップによるスモールExit急増 予測:2018年に大型Exitしたスタートアップが小規模でのM&Aを多数行うことでプロダクトラインを広げたりチームを獲得する 結果:これも大体予想通りでした。公表ベースでExit件数は2018年の倍以上です。一方で大型調達は多かったもののExitはあまり出ていません。 3.骨太の連続起業家誕生への期待 予測:今後Exitする起業家が増えてくると2度目3度目と、大きな勝負に出る起業家が出てくる土壌ができてくる 結果:象徴的なのはGrowというキックボードシェアリングのスタートアップです。ユニコーンクラスのExitを行った99の創業者達によってつくられて、あっという間にユニコーンクラスになりました。ハードウェア投資が必要なだけに、連続起業家でなければ資金調達が難しい事業モデルです。ただ、全体的に見ると多くの連続起業家が出てきた印象ではありません。一方で、大型スタートアップの中で社員として経験した起業家が増えています。「XXXマフィア」と呼ばれて行きそうな人々です。創業者ではないものの、テック企業が急成長する真っただ中にいた経験はポジティブです。   2020年の展望 1.2019年の傾向は2020年も続く:スタートアップ企業価値の上昇、スモールExit急増、連続起業家誕生 2019年は大型調達はあったものの、実は大型Exitはありませんでした。2019年に仕込まれた案件がExitまで行くのかどうか。USでのIPOが噂されている数社でのIPOが実現するかはUSマーケットの好不調にも依存します。Weworkショックの後でソフトバンクの動きが変わるのかも注目ではありますが、多少目立ったイベントで調整が入っても、市場全体が冷え込むことはないと予想します。その理由は以下のような感じです。 元々ブラジルのスタートアップのバリュエーションは割安感 既に数百億円単位の調達を完了したVCが5社程度 ユニコーンクラスの創業者がエンジェル投資家として活動強化 ブラジルでの公定歩合が4.5%と市場最低レベル。商業銀行がVCのLP投資に向けた投資信託の販売計画 2.フィンテックのコモディティ化 ブラジルのオープンバンキングによって、金融サービスが銀行の「軒先」を借りて提供できる訴状が整備されつつあります。決済、送金、クレジット機能を特定の顧客セグメント向けに提供するスタートアップが増えていく中で、大手との合従連衡がどのレベルで起きてくるのかが注目です。 3.C向けメディア・エンタメからの注目スタートアップの出現 資金が供給過剰感がある中で、ようやくC向けのサービスにも資金が供給されやすくなっていくと思います。これまでもDX文脈のリアルが絡むC向けサービスは大きかったですし、シンプルな「ECモール」的なものはありましたが、特定のセグメントに向けてデジタルで完結するメディア、エンタメ、ゲーム、eスポーツ、ショッピングプラットフォームなどのサービスの再発明がブラジルでも始まると思います。結果が見えてくるまでには3年くらいはかかりそうですが(といって来年の振り返りに保険を張っておきます)   【ブラジル・ベンチャー・キャピタルの振り返りと展望】 ブラジルベンチャーキャピタルも2018年に始めた活動を継続拡大した年となりました。 2020年には大きなイベントがあるものの、原則的には2019年の活動をひとつひとつ強化していくことに変わりありません。 1.投資先が順調に成長し、更なる資金調達を受ける 詳細は諸々の制約の中で割愛しますが、資金流入が堅調な中、弊社の投資先も順調に成長し、次の資金調達ラウンドに進んでいます。 2.ジャパンアングルの案件形成 5年前に独立して活動をはじめたときは本当に日本と絡んで何かできるのか、という疑問の声しか聴きませんでしたが、2019年にはじめて日本との具体的な連携となる案件をつくることができました。日本のドローンファンドによる弊社投資先のARPACへの投資が実現しました。関連ブログはこちら その後、ドローンファンドの代表でいらっしゃる大前創希さんがブラジルにいらっしゃったり、投資を受けたARPACが日本へ行くなど、今後ますます日本とブラジルの連携が強められればと思います。これまで一人で行き来していたのが、こうして複数の方が行き来し始めることで指数関数的に連携が強化していくことと期待しております。 3.マーケティング活動の強化 2018年は弊社のマーケティング強化初年度とも言えますが、2019年も継続強化しました。 年初に2冊書籍を出版:まさかポルトガル語で本を出す日が来るとはおもっていませんでしたが 「未来をつくる起業家ーブラジル編」としてブラジルの起業家インタビューをまとめました。アマゾンはこちら 「Empreendedor:... Read More

ブラジルで2頭目のユニコーン誕生!ブラジルのPagseguroがNYSEでIPO

NYSEに上場したPagseguro

1月3日に中国のカーシェアリング大手、滴滴がブラジルの99を買収してブラジル初のユニコーンが誕生したとして大きな話題になりました。 そのわずか3週間後、1月24日に今度はブラジルの決済サービスのPagseguro(パグセグーロ)がニューヨーク証券取引所への上場という形で第二のユニコーン誕生となりました。アメリカでもスナップチャット以来の大型上場としてした報道のされかたもしています。 調達額だけで11億ドルで、企業価値は75億ドルとユニコーン5頭分の大きさです。売上高が2016年度が4.3億ドルですからちょっとバリュエーションが高すぎるようにも見えますが、最終四半期の売上成長率も140%と相変わらずの急成長を遂げています。IPO後株価は30%上昇したあたりを推移しているようなのでまずまずの出だしでしょう。 Pagseguroは2006年にメディアグループUniverso... Read More

ブラジル初のユニコーン誕生でスタートアップにプラスの影響 南米のカーシェアリング業界(3)

ブラジル カーシェアリング

中国の滴々の99買収で注目を集めるブラジルのカーシェアリング業界のまとめ第三弾です。 ユニコーンの誕生でブラジルのスタートアップエコシステムの活性化が進むでしょう。 (前回のブログはこちら) 1 南米でのカーシェアリングも規制対応は大きな課題 2 ブラジルのカーシェアリングはUBERの圧倒的優位な中、決着間近 3 ブラジル初のユニコーン誕生でスタートアップエコシステムにプラスの影響   今回の滴滴の99買収時の企業価値はUS10億ドルと言われています。これで99はブラジル初のユニコーン企業となったことを意味します。 下記のTechCrunchの記事によると2017年1月に投資した100億ドルに加えて今回900億ドルを出資、うち600億ドルは既存株主に、300億ドルは会社への資金注入となっています。 https://techcrunch.com/2018/01/03/didi-confirms-it-has-acquired-99-in-brazil-to-expand-in-latin-america/ これまでの99への投資家をCrunchbaseで見てみるとMonasheesというブラジルの最古参のベンチャーキャピタル、米系のQualcomm、Tiger... Read More

UBERの圧倒的なシェアで勝負あり 南米のカーシェアリング業界(2)

ブラジル カーシェアリング

中国の滴々の99買収で注目を集めるブラジルのカーシェアリング業界のまとめ第二弾です。 (前回のブログはこちら) 1 南米でのカーシェアリングも規制対応は大きな課題 2 ブラジルのカーシェアリングはUBERの圧倒的優位な中、決着間近 3 ブラジル初のユニコーン誕生でスタートアップエコシステムにプラスの影響   2 ブラジルのカーシェアリングはUBERの圧倒的優位な中、決着間近 ブラジル、サンパウロでのカーシェアリングのシェアを見ると8-9割と圧倒的なシェアを誇っているのはUberで、次に今回買収された99が10-15%程度、Cabifyが数%という状況です。(各種ソース+独自調査の結果を含めた推測) また、サンパウロ以外ではUBERしか使えない都市も多く、ブラジル全体でのシェアはUBERが圧倒的といっていいでしょう。 UBER以外のサービスはかなりの割引クーポンの乱発、登録ドライバー向けの最低賃金保証や手数料軽減等の優遇策を打っていましたが、今は料金も利用者にもドライバーにもほぼ同等でプロモーションでシェアを覆すところまではいけなかったようです。 この競争の中で99と同時期にサービスインした老舗のEasyTaxiは現時点では高級タクシーに特化し、一般ドライバーを呼ぶことができない状況になっています。   ドライバーの数はUBERが50万人というデータを公表していますが、UBER、99はオンラインで登録が完了するのに対して、CabifyはCabifyのオフィスで必要書類を届けることが必要とされているので、やはりUBERが多いようです。(複数アプリでの兼業が認められているので、登録ドライバー数だけを見てもなかなか判断はできずアクティブなドライバー数を見ないといけないですが) 業界をシェアトップとの相対的なシェアで判断するRMS(Relative... Read More

滴滴の99買収でブラジル初のユニコーン誕生 南米のカーシェアリング業界(1)

ブラジル カーシェアリング

中国の滴々がブラジルのカーシェアリング大手99を買収したことはブラジルでも大きなニュースになっています。ブラジルを含む南米ではカーシェアリングは一般的なものになっていて、日本よりもかなり浸透しています。 以前にもこのブログで南米のカーシェアリング業界について書きましたがここで最近の状況を含めてアップデートしたいと思います。 1 南米でのカーシェアリングも規制対応は大きな課題 2 ブラジルのカーシェアリングはUBERの圧倒的優位な中、決着間近 3 ブラジル初のユニコーン誕生でスタートアップエコシステムにプラスの影響   1 南米でのカーシェアリングも規制対応は大きな課題 日本では規制の関係でカーシェアリングがなかなか普及していません。 中南米ではブラジルに限らず、メキシコ、チリ、コロンビア、アルゼンチンでもUBERを含む複数のサービスが普及していますが、実は規制については似たような状況です。 異なるのは南米では元々規制を無視した白タクが日本よりも一般的だったこと、タクシーに不満を持つ消費者が多いこと、物事が法律通りに進まないビジネス環境、があることで業界・行政と小競り合いを繰り返しながら、一部のサービスを除いて多くのサービスが違法、もしくはグレーゾーンの中で運営を続けている状態が数年続いている状況です。 ブラジルでの規制当局との関連を紐解いてみると、まず最初にスタートしたのは99とEasyTaxiで、タクシーのみを呼べるアプリとしてサービスをスタートしました。その後、Uber、Cabify等が参入して一般ドライバーを呼べる状況が起きたことで99とEasyTaxiも一般ドライバーを呼べるサービスを加えて追随しました。 こうしたサービスは最初は納税を個々のドライバーに任せることで税務の問題を回避しようとしていたのですが、タクシー組合が違法として訴訟を起こし、多くの市でアプリ側がタクシーと同様の納税をすることでひとまず決着を得たので現時点ではUber含め、多くの市では合法なサービスと認められています。 なお、ブラジルの場合は規制の単位が市なので市によって使えるところ、使えないところがありますし、空港付近などで特別なタクシー協会の力が強いところはアプリ側が自主規制してサービスを使えないエリアを設定していた時期などがありました。 その後、現在再度ブラジルで争われているのは、タクシーと同様の車両・ドライバーに対する要件をカーシェアリングのドライバーにも適用するべきだという点です。 例えばタクシーに使える車両は必要な費用を払い、手続きを踏むことで当局から正式にタクシー業務が可能な車両として登録されます。手続きの中で必要な保険に入ること、車検を受けていること、車両の所有者が納税等の当然の義務を果たしているかが確認されます。 また、ドライバーも必要な手続き・テストを得ることで過去の違反歴や犯罪歴、適正な運転免許を保有しているかどうかを確認されます。 最終的な結論が出るまでにまだ時間がかかりそうですが、ドライバーと話していても「規制ができたら必要な登録作業を行うだけ」という人も多く、サービス自体が根本的になくなることはなさそうです。 なお、コロンビアでは通常のUBERは非合法ながら、UBER... Read More