Esporte Interativo創業者インタビュー:スポーツビジネス界の風雲児Part 3:スポーツ業界での起業を目指して

エディガル・ディニズ

ブラジル・ベンチャー・キャピタルの起業家インタビューシリーズ。 ブラジルで新規参入の難しいメディア・コンテンツ業界でエディガル・ディニズの企業から米タイムワーナーグループのターナー社へ売却までのストーリー。 最終章では自分が育てた企業を売却するに至る背景が語られます。 最後の起業家へのメッセージは国を問わず示唆に富みますので是非参考になさってください。   インターネット配信へのチャレンジ スポルチとして独立したチャンネルでの配信後も、困難な状況は続きましたが、何とか営業を続けられるだけの収益が入ってきましたが、私たちの独立したチャンネルではなかなか視聴者数が増えずにいました。 一方で、国内の有料ケーブルテレビの契約者数はかなり上昇していました。ケーブルテレビのチャンネルの一つとならなければ、他の企業に遅れを取るのは目に見えていました。 しかし、そこから段々と競争や妨害が激しくなりました。特に、元クライアントだったグロボからの妨害は厳しいものでした。 グロボテレビは非常に大きなテレビ局で、重要なコンテンツも持っているので、有料ケーブルテレビ部門である、グロボサット(Globosat)という子会社は大手有料テレビ局のスカイ(Sky)やネット(Net)といったケーブルテレビ会社のコンテンツ選択に影響力を持っていました。 ケーブルテレビ会社自体がコンテンツを自由に決められず、グロボにどのコンテンツを入れるか相談しなければいけなかったのです。グロボは私たちと同じコンテンツ配信会社ですので、競合に命運を決められている状況でした。 結果的に、私たちのチャンネルをケーブルテレビのメニューに入れることをグロボが拒否し、無料でコンテンツを提供したとしても番組枠に入れてもらえないことがわかりました。 厳しい状況でしたが、持っているコンテンツの視聴者を増やす方法を検討していく中で、インターネットを主軸にしはじめました。 2012年、すでにアメリカではネットフリックスがオーバーザトップというストリーミングでのコンテンツ配信で成功していました。私たちは同じくストリーミングの配信モデルでをエウ・プラス(El Plus)というコンテンツを提供し始めました。 この1年後にネットフリックスがブラジルに参入してくることになり、ブラジルで初めてのストリーミング配信を私たちがやることができたのです。   戦略的パートナーによる状況の打破 エスポルチ・インテラチ―ヴォはゴールドマン・サックスに依頼して戦略的な資本提携先を探し始めました。 当時、HDテクノロジー導入などで投資が必要だったので、海外の大手パートナーを株主に迎えることで資金力を増強するとともに会社としての影響力を増して、大手ケーブルテレビとの取引を有利にしようと考えてのことでした。 2013年の半ばにはタイムワーナーグループであるアメリカのターナー社から約7千万レアル(約25億円)の出資を受け、エスポルチの株37%を保有する株主として迎え入れました。 しかし、私たちの考えとは裏腹に、ターナー社参画後も他の企業の抵抗は続いたため、現状を打破すべく大きな投資に打って出る必要があったため、2014年のチャンピオンズリーグ独占権を買い取りました。 これまでもチャンピオンズリーグの放映権を購入してきましたが、それまでの契約には独占権もなく、民間放送でしか放映出来ないという制限付きでした。ブラジル内での競合もほとんどなかったので、契約金額もいまにしてみれば非常に小さなものでした。 ただ、この2013年を超えたあたりではケーブルテレビも力をつけていましたし、私たちが過去に持ってきたことでチャンピオンズリーグがブラジルで十分収益をあげられるコンテンツだということが証明されていたので、同じ条件の放映権ではケーブルテレビや競合でも放送できてしまうために、私たちの独自性を打ち出せないという問題がありました。 ネットフリックスに先立って始めたインターネット配信も当時はタイミングが早すぎて十分な事業に育っておらず、インターネットがブラジルに普及していれば、有料ケーブルテレビとは独立した形で事業を続けることができ、また違った結果になっていた可能性も大いにあると思いますが、当時の状況ではスカイやネットを使わずに競争に残るのは無理でした。 しかし、この投資は自己資金だけではまかないきれない金額だったため、ターナー社から更なる出資を受ける必要が出たため、すでにターナー社の株式持ち分も大きく、これ以上の出資を受けた場合に、私達が小数株主としてとどまるメリットもないと判断し、エスポルチの100%をターナー社に売却しました。   エスポルチ・インテラチ―ヴォとしての成功 株主ではなくなったものの、引き続きエスポルチ・インテラチ―ヴォの経営陣として指揮を執り続け、チャンピオンズリーグという人気コンテンツの独占権利を得たことで、ネットやスカイはエスポルチ・インテラチ―ヴォを有料チャンネルの番組枠に入れずにはいられなくなっていました。 視聴者の猛烈な要望を受けたのでしょう、最初にネッチが、その後スカイが、それぞれエスポルチ・インテラチ―ヴォをチャンネルの一つとして受け入れることになりました。 また、翌年の2013年には、会社設立最初の大きなプロジェクトであったリガ・ノルデスチの復活という喜ばしいニュースもありました。10年間にも及んだ裁判が終わり、また私たちがこのリーグの運営に参加することができるようになりました。出資を受けた結果エスポルチ・インテラチ―ヴォとしては大きく前進することができました。   新たな始まり 最終的に会社の100%の売却が完全に終了したのは2015年2月でした。 それから更に1年間、経営に携わりましたが、また新しいプロジェクトを始めるべく、家族と一緒にアメリカのシリコンバレーに引っ越しました。 かねてよりシリコンバレーの生態系、シードアクセラレーターやキャピタルベンチャーについてもっと深く知り、新しい起業家達とのネットワークを作りたいと強く考えていました。 その後、小さなスタートアップへの投資を行って経営のサポートをしつつ、自分で新しく起業する為の準備をしています。 今年の初めにアメリカからブラジルへ戻ってきて、本格的に事業を立ち上げる準備を進めています。今度の事業はシンプルに言えば、様々なスポーツ関連の組織がで簡単に動画配信できるようなオンラインプラットフォームのサービスを考えています。 起業や新たなサービスを提供してきた中で思うのは、やはり自分はグローバル大企業で働くのには合わないといことです。自分が経験したからこそ言えることですが、大企業の社内政治は起業をするのに必要な自由と自主性を奪ってしまうのです。結局、社内のマネジメントに多くの時間を費やしてしまい、新しいことが出来なくなってしまう。 エスポルチ・インテラチーヴォの成功の秘訣は、社内調整に私達の時間をそれ程使わずに成長できたことだと思います。私がプロジェクトに携わったり取引するなどで垣間見てきた他の大企業はその部分でいつも非常に難しい状況にあると思います。   ブラジルスタートアップのエコシステム 私が起業を始めた90年代後半に比べると、今のブラジルはスタートアップが発展しやすい、非常によいエコシステムができていると思います。勿論、シリコンバレーには程遠いですが、基本的な考え方・土壌がが違うので、単純に比べられないと思います。 ブラジルのスタートアップが更に発展するには、文化的な要素が変わっていかなければいけないと思います。例えば、私自身の経験を例にすると、ターナー社を退職すると決めた時、沢山の人から良い役職、良い給料を貰っているのに、何が不満なんだと聞かれました。 私は今、大企業からの招待を断り、就職先を敢えて探さずに、ゼロから新しいことを始めようとしています。この様な考え方は、ブラジルでは自然だと思われません。まだまだブラジルでは、起業家になるのは良い仕事に就けなかった人だとすら考えられてしまう偏見がまだあるように思います。 シリコンバレーでは起業家が次から次へと新しいプロジェクトを始め、多くのプロジェクトが失敗に終わる中で、少数が成功します。重要なのは多くの人がたくさんのプロジェクトを始めることです。 もしブラジルが、起業に関する手続きを簡易化してくれれば、だいぶ良くなるとは思います。例えば会社設立手続きの官僚的なところや、複雑な税制の簡素化などが行われるとブラジルのエコシステムもさらに良くなると思います。   起業を志す人へのアドバイス 起業を始める前に、起業してからの困難に対して現実的に考える様に心がけてください。 明日の保証がない人生を生きる覚悟が必要です。 エスポルチの歴史を振り返っても例外ではなく、私達は何度も新たなことをゼロから作り上げることをを繰り返さなければいけませんでしたし、資金が切れて倒産する寸前まで行ったことも1度ではありません。 その反面、自分の努力が実を結ぶのを見るほど人生で嬉しいこともありません。特に、自分自身のパッションに基づいて活動しているのであれば尚の事です。 シリコンバレーのベンチャーキャピタルがよく言うことですが、起業家には2種類、「ビジョナリーとマーセナリー」がいます。 ビッグビジネスにまで発展するのは最初のグループでビジョンや夢を実現すべく始めたビジネスで、最初から金儲けが目的となってしまっているビジネスはそれほど大きな成功を収めることはありません。あなたにはお金に関係なく、本当にやりたいことはありますか?   起業家達へ三つのメッセージ 「壁もありますが、ブラジルはビジネスチャンスが沢山あります。この国には色々な分野に置いて、大きな市場がありますが、それと同時に、現状のサービスのクオリティがまだまだ低いので、それを解決するニーズがあり、そこにビジネスチャンスがあるのです。」 「私自身、まだまだ起業するエネルギーもありますし、次の事業ではまた異なったアプローチをするとは思いますが、一つだけ、確実なことがあります:私は絶対に縦割りの大企業で働きたくありません。大企業の社内政治は、起業をするにおいて必要な自由や自主性を奪ってしまう可能性があるからです。 「起業を始める前から、起業後の困難に対して現実的に考えることはとても重要です。そして、保証のない明日を生きるには、自分自身を良く知る、という準備がとても重要になってきます。」 エディガル・ディニズ(Edgar... Read More